赤いギターと白い雲
ベンチャーズとともに駆け抜けた青春

             5.始動の時(2)

「何、これ?」
 けげんな顔でたずねる秀に、
「君が、エレキ・ギターを買ったのに、アンプがないっていうから。やっぱりエレキって、アンプから音を出さないと、面白くないんだろう?」
 眼鏡の奥の志垣の目が、いたずらそうに笑っている。
「物置に古いラジオがあったんで、そいつをちょっと改造して、スピーカーをつなげてみたんだ。」
 なるほど、上から覗くと、箱の中の部品は、確かに古いラジオのもののようだ。箱の下の方に丸い穴があいていて、そこに口径10センチほどのスピーカーがネジで固定されていた。
「へえー、これがアンプ? ほんとに音が出るのかね?」
 半信半疑の秀に、志垣は首をすくめ、
「どんな音が出るのか、俺にもわからないが、必ず音が出るようには作ってある。」
 と、技術者らしい冷静な返事をした。
「とにかく試してみよう。」
 
 スピーカーの横に、ちゃんと標準ジャック端子がつけられている。秀はその穴にギターのシールドを差し込んでから、アンプの電源コードをコンセントに差した。さすがに電源のON−OFFのスイッチまでは、取り付ける暇がなかったという。
 部品に真空管が使われていたので、実際に音が出るまで、しばらく時間がかかった。30秒、いや、1分かもしれない。かすかに「ジー・・・・・」というノイズ音が聞こえてきた。
 ギターのボリューム・コントローラーが全開になっているのを確かめて、秀は「ジャラ−ン」とGのオープン・コードを弾いてみた。
「おお!」
 秀は猛烈に感動した。まさに、エレキ・ギターの音がするではないか。
 スピーカーの能力が程よく不足していて、ちょっと歪んだ、いい感じの音だ。
「いやあ、いいね。こんなもの、よく作ったなあ。」
 感心する秀に志垣は、
「こんなもの、大したメカじゃないよ。」
と平然と言い放ち、
「必要なら、ずっと使っていていいから。」
と言い残して帰っていった。

 友人の思わぬ差し入れで、ハンドメイドのゴツい木箱製ではあるが、アンプを手に入れた秀は、その日からいっそう夢中になって、エレキを弾いた。
 一人で弾いていても面白くないので、オープン・リールのテープレコーダーにリズム・ギターを録音し、それに合わせてリード・ギターを弾いて楽しんだりもした。
 その頃のレパートリーは、ベンチャーズのものでは、せいぜい「ダイアモンド・ヘッド」や「パイプライン」に毛が生えた程度だったので、あとは小柳ルミ子の「京のにわか雨」や南 沙織の「純潔」など、ヒット歌謡をインストルメンタルで弾いた。当時の秀は「月刊明星」の付録の歌本の愛好者であった。

 秀にとって「エレキ」は、やはりベンチャーズを代表とする、インストルメンタルであった。
 当時すでにグランド・ファンク・レイルロードの「ハート・ブレイカー」はアマチュア・ロック・バンドの必須アイテムになっていたし、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルも相次いで来日し、「エレキ・ギター」という呼び名が、そろそろ気恥ずかしい時代になっていた。
 それでも「自分で演る音楽」としては、グループ・サウンズが歴史の中に埋没してしまった今、秀にはベンチャーズという選択肢しかなかった。

 レパートリーの少なさに飽きがきて、秀はようやく「ベンチャーズのLPアルバム」を買う決心をした。


              


TOP-PAGE