赤いギターと白い雲
ベンチャーズとともに駆け抜けた青春

         3.サウンド・オブ・サイレンス(3)

 駿河台の坂の途中の、何軒かの有名店で、松谷の方は何本か「これだったら買ってもいい」という目星をつけていたが、根気よく秀に付き合ってくれていた。
「もう少し探せば、もっと安くていいのが見つかるかもしれないからね。」
 秀は、これは、と思うギターが見つからないいらだちと、長時間歩き回った事による疲労感で、ほとんど無口になっていた。

 「こっちの方も見てみよう。」
松谷は三省堂の裏手へと足を進めていく。表通りほどではないが、こちらにも多少の古本屋が、ぽつり、ぽつりと点在している。
 と、その中に、店頭にズラリと種々雑多なエレキ・ギターをスタンドに立てて並べている楽器店が目について、二人は思わず足を止めた。
 駿河台にある有名店と比べ、何やらうさんくさい雰囲気ではあるが、なんとなく「通の来る店」のような風格が、店全体を包んでいる。
 この店こそ、お茶の水の中古楽器店でも老舗に入る「須賀楽器」であった。
 展示されているギターは、どれもこれも、中古品か、有名メーカー品でない、値段の安いギターなのだ。

 松谷は店の奥のフォーク・ギターのコーナーに消えて行き、一人入り口に残った秀は、所狭しと並んだギターを一本一本眺めはじめた。
 グレコやエルクのギターは、中古とはいえ、秀の予算に合う値段ではなく、逆に予算以下の物は、どれもこれも秀の趣味に合わなかった。

 その中で、一本だけ秀の目を引いた黒いギターがあった。どうも、どこかで見たことのある懐かしさと、カッコよさを感じる。トレモロ・アームがついていて、糸巻きも秀の好きな左右3個タイプである。
 ネックのヘッドがギザギザになっていて、その具合がとてもいい感じだった。何より、ボディーのシェイプが美しく、全体的に見たバランスが、他のギターに比べて抜群に素晴らしい。
 しかも、値札を見ればなんと、17,000円也で、秀の予算でもおつりがくる。
 迷わず秀は決めた。店員を呼び、おもむろに「これ下さい」と言う。
 ニコリともせずに応対した店員だが、ソフト・ケースとストラップをおまけでつけてくれた。

 松谷も、12弦のフォーク・ギターを購入していた。
「この店が一番安かった。歩き回った甲斐があったね。」
という松谷に、秀は、
「僕はもうあきらめかけてたよ。君の執念のおかげだね。」
と、笑顔で答えた。

 エレキ・ギターとフォーク・ギターを手に下げて、二人の高校生は、来た時と逆の駿河台の坂道を、足取りも軽く登って行く。夏の到来を告げるかのような白い入道雲が、ビルの谷間の彼方から覗いていた。


              

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