赤いギターと白い雲
ベンチャーズとともに駆け抜けた青春

          13.空白の時(2)

 秀は中学2年の終業とともに、千葉県の柏市に引っ越すことになった。父が奮発して、土地を買い、家を建てたのだ。
 
 渋山ゆりとは、中学に入ってから違うクラスになってしまい、好意を抱き続けながらも、これといった交流は持てなかった。
 ところが、あと数日で引越しというある日の放課後、ゆりが日野原ゆきえと秀の家に訪ねてきたのだ。
 秀は驚き、うろたえたが、とりあえず二人に、家に上がってもらった。
「引っ越しちゃうんですってね。」
 ゆりが淋しそうな表情で言うと、ゆきえが赤いリボンで結ばれたプレゼントの包みを差し出した。
「これ、私たち二人の気持ちよ。」
 手に汗をかきながら、秀は受け取った。
「ありがとう。開けてもいい?」
「ええ。」
 きれいな包み紙を開けると、中には「怪盗ルパン/8-1-3」の本が入っていた。秀が普段から探偵小説を愛読していることを、知っていたのだろう。
 秀は、ゆりとゆきえの細やかな心遣いが、嬉しかった。

「小学校5年の頃、角山君と四人でよく遊んだわね。あれ、すごく楽しかったわ。」
 ゆきえが懐かしそうに言うと、三人はしばらく思いで話に花を咲かせた。
 気のきくゆりは、
「6年生の時の、虹沢君たちのグループ・サウンズ、とても素敵だったわ。」
 と、秀を持ち上げることを忘れなかった。

 2時間ほどで、ゆりとゆきえは帰ることになった。別れ際にゆりが、
「よかったら、お手紙くれる?」
と言ってくれたが、秀は、
「う、うん。きっと出すよ。」
と返事するのがやっとだった。

 二人が帰った後、秀は、ゆりに対して気のきいたセリフの一つも言えなかったことに、自己嫌悪に陥ったが、テーブルの上に残された、ゆりとゆきえからのプレゼントの包みが、そんな秀のやりきれない気持ちを救っていた。

 春休みの間に秀の一家は、千葉県の柏市の郊外にある一軒家に引っ越した。
 中学三年になって、初めて自分一人の部屋をあてがわれた秀は、ラジオの深夜放送を聞きながら、夜更かしをするようになった。曜日によって、聞く放送局は変わったが、一番よく聞いたのは亀淵昭信氏や、斉藤安弘氏の、「オールナイト・ニッポン」であった。シカゴの曲や、ミッシェル・ポルナレフの曲に、耳を奪われていた。

 転校した新しい中学では、方言のきついクラスメートに最初はとまどったが、すぐに慣れて溶け込み、高校への受験勉強のかたわら、駅伝大会の選手として、流山市の近辺を走ったりもした。

 渋山ゆりとは、時々手紙を出しあい、近況を報告しあった。

 ギターも時々は弾いた。
 といっても、「月刊明星」や「月刊平凡」の付録の歌本を見ながら、流行歌やフォーク・ソングを口ずさんだ程度である。
 ベンチャーズ・ブーム、GSブームの頃の、あのエレキ・ギターの響きは、依然として秀の身体には、よみがえっていなかった。



 この年、ベンチャーズの「さすらいのギター」が突如としてヒットした。
 前の年から渚 ゆう子の「京都の恋」「京都慕情」が立て続けに大ヒットし、ベンチャーズが健在なのは知っていた。しかし、中学の掃除の時間に放送部が流す「さすらいのギター」を耳にしても、まだ秀の心は動かない。

 だが、次の年、高校に入学したあと、彼の人生そのものを変えてしまう出来事が待ち構えていようとは、秀自身にも、まったく予感すらできなかったのである。

        ∽∽∽ 黎明編、完 ∽∽∽

            

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