赤いギターと白い雲
ベンチャーズとともに駆け抜けた青春

           10.GSをやろう!(4)

 すっかり街並みの装いが冬支度になって、クリスマス会の当日がやってきた。
 その日、ストーブ当番だった秀は、一番乗りで登校し、校舎の裏手からコークスをバケツで運び、教室の黒板の横に鎮座している「だるまストーブ」に、それをスコップで入れて、火をつけた。極めて原始的なストーブだが、一端火がつけば、その火力はメル・テイラーのリム・ショットぐらい強力であった。

  渋山ゆりも、わりと早く来た組だった。ゆりは教室に入ると、かぶって来た水色の帽子をとった。セミ・ロングの黒い髪が「フワッ」と広がって、女の子らしい、いい香りが周囲に広がった。
「おはよう、ストーブ当番だったのね。」
 ちょっと眩しくて、口をきけないでいた秀に、ゆりの方から声をかけてきた。
「お、おはよう。渋山さんも、早いね。」
 秀は照れ隠しに、ストーブの火の様子を見るふりをしていた。

 やがて、クラスメートたちが3人、5人と登校し始めた。
みんな、登校するなり、今日のクリスマス会の出し物の準備に入った。
 ゆりや、仁村洋子の演劇組は台本を片手に、最後の仕上げに余念がなく、秀才である小林陽一郎や高島隼人の研究発表組は、図面やグラフの仕上げにかかっていた。
 ほどなく勇やノリヒロ、弘一も登校してきた。弘一が音楽室にスネア・ドラムとスタンド・シンバルを借りに行っている間に、秀とノリヒロはギターのチューニングに入った。音楽の授業で使うハーモニカの音を頼りに「ティン・ティーン・・・」とピッキングしながら糸巻きを微調整していく。
 秀は弦を端からきっちりと巻くのが好きだったが、ノリヒロはテレビで見たブルー・コメッツの三原 綱木の真似をして、糸巻きから10センチ以上も弦を飛び出させて巻いていた。二人とも弦は前日に張り替えてあった。
 その横でリード・ヴォーカルの勇は歌詞カードを見ながら、今日のレパートリーのおさらいをしている。

 しばらくして弘一が、両手にスネアとシンバルを重たそうに持って戻ってきた。
 秀たち「ザ・ルネッサンス」の出番はトップ・バッターだったので、机を寄せて作った特設ステージにそれをセットした。
 できれば、ここにアンプをドンと置いたら、どんなにかカッコいいだろうなあ、と秀は思ったが、本物のスネアとシンバルが存在しているだけで、十分雰囲気は盛り上がっていた。

 やがて川原順子先生が教室に顔を見せ、
「みなさん、準備はいいですか?」
と微笑しながら言った。
 1時間目の始業開始のチャイムが鳴り、司会役で学級委員の杉本忠志と糸川多英子が開会のあいさつをした。
 そして多英子の、
「では、最初の出演は、虹沢 秀くん、兼田ノリヒロくん、工藤弘一くん、角山 勇くんによる、グループ・サウンズ『ザ・ルネッサンス』の唄と演奏です。盛大な拍手でお迎えください。」
という紹介とともに、四人はさっそうとステージに上がった。ギターを抱えた秀とノリヒロの姿に、クラスメートの間から、何とも言えぬ溜息が漏れるのが聞こえてきた。

 当時、少なくとも秀の周りで、小学生でギターを弾いているのは、ノリヒロだけだった。子供が学校の授業以外で音楽をやるとしたら、日野原ゆきえのようにピアノを習うか、またはヴァイオリンを習うかであったのだ。
 例えコミック・バンドのような編成とはいえ、ポップスを演奏するバンドを生で見るというのは、クラスメート達には、非常に新鮮な事だったに違いない。

             

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