赤いギターと白い雲
ベンチャーズとともに駆け抜けた青春

            5.淡いときめき

 秀は学校が好きであった。ことさらに勉強が好きな訳ではない。仲の良い友達が一杯いて楽しかったし、何よりクラスに好きな女の子がたくさんいたのが、一番の理由である。
 ちょっと大柄だけど、明るくて快活な仁村陽子。頭が良いのに、性格も良い白瀬則子。上品な顔立ちに、眼鏡がよく似合う糸川多英子。
 毎日、その日の気分で、憧れの対象を切り替えるという、実に贅沢な状況であった。

 中でも、秀の一番のお気に入りは、5年生になってから転校してきた、渋山ゆりであった。
 ゆりは、秀の住む団地の、別の棟に越してきた、さわやかな女の子だった。
 たまたま、教室での席が近かったので、何かと会話する機会も多く、秀はゆりのぽっちゃりとした顔立ちと、キラキラ輝く黒い瞳に、次第に心を惹かれていった。

 とはいっても、昭和40年代の、まだまだ小学生のこと、ことさらに「好きだ」と打ち明けたりすることはなかった。
 秀は、ひたすら、お気に入りのベンチャーズのレコード・ジャケットの演奏シーンの写真を眺めているがごとく、教室内にゆりが存在する事自体に、満足していたのであった。

 相変わらず気ままな月日が過ぎ、10月の半ばになり、秋が少しずつ深まってきた、ある日の放課後。
 秀は友達の角山 勇と近所の公園で遊んでいた。勇は、楽器は弾けなかったが、歌がうまく、特に、当時台頭してきたグループ・サウンズの、タイガースとテンプターズのナンバーが得意であった。

 すると、そこへ偶然にも渋山ゆりが、仲良しの日野原ゆきえと連れ立って公園にやって来た。ゆきえはピアノの上手な色白の女の子だった。
 その時、お互いにとりたててすることがない、ということで、四人でゆきえの家で遊ぶことになった。自然発生のグループ交際とでも言えようか。

 それを機会に、秀と勇、ゆり、ゆきえの四人で二週間に一回程度、ゆきえの家で遊ぶようになった。
 する事といえば、トランプやレコード鑑賞など、他愛もないものばかりだったが、秀にとっては、まるで雲の上にいるような、夢のひとときであった。

 そうしているうちに、年の瀬も迫り、クリスマスがやってきた。秀は勇とともに、ゆきえの家でのクリスマス・パーティーに誘われた。いつもの四人の他に、3〜4人多めに集った。もちろん、ゆりも来ている。
 お互い、お菓子やプレゼント、ゲームなどを持ち寄り、いつもの集りよりも、ずいぶん華やいだ雰囲気になった。

 クリスマスだというので、何かクリスマスのレコードをかけよう、という事になった時、ゆりが、
「お兄ちゃんから借りてきたの。」
と言って、黄色いジャケットの、4曲入りコンパクト盤をカバンから出してきた。
 見れば、ベンチャーズではないか。この時秀は、ベンチャーズの「クリスマス・アルバム」の存在を知らず、そこからカットされた、このEP盤も初めて目にした。
「へえー、渋山さんのお兄さん、ベンチャーズが好きなんだ。」
 と聞くと、
「私もベンチャーズ大好き。」
とゆりが答えたので、秀は訳もなくうれしくなった。



 ゆきえがレコードに針を落すと、曲はみな、耳慣れたクリスマス・ソングだが、流れて来るのは、まぎれもなく、あのワイルドで迫力のあるベンチャーズのサウンドであった。
 この頃は、ベンチャーズのレコードを女の子と聴く、というのも、十分ムードのある行為だったのだ。
 秀の得意な「テケテケテケ」が入っていないのは、少し物足りなかったが、ゆりと肩を寄せるようにして聴くベンチャーズは、また格別のものであった。


            

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