34.文化祭(5)

 コンサートはいよいよ佳境を迎え、T.A.D.は、ベンチャーズおなじみのナンバーを一気に連発する。
「十番街の殺人」
「アパッチ」
「朝日のあたる家」
「ウォーク・ドント・ラン」
「パイプライン」

   
     GRECOの赤いテレキャスター(自主カスタム・モデル)

 これが、本物のベンチャーズのコンサートだったら、客席のボルテージも一気にあがり、大いに盛り上がるところなのだろうが、現実は、客席のほぼ100パーセントが、実際にベンチャーズのコンサートなど見た事のない人々である。
 どの曲を演奏しても、曲が終るたびに均等に拍手が来るだけなのが、無名の高校生バンドの悲しさであった。

 さらに、打ち合わせ不足で「とりあえずのラスト・ナンバー」である「パイプライン」まで一気に演奏してしまったため、どうやって「キャラバン」をアンコールにするか、難しい状況に陥ってしまった。
 客席が、ベンチャーズのコンサートを見慣れた人たちばかりで埋めつくされていたのなら、曲順の流れから、
「ああ、この後はアンコールだな。」
と暗黙の了解も得られただろうが、高校の文化祭では、そうは行かない。
 メンバー全員、立ち往生の状態で、間抜けな空気が場内に流れてしまった。
 仕方なく秀がマイクに向かい、
「あの・・・・・。実は、今の曲がラスト・ナンバーで、そのあと、皆さんに『アンコール』をいただくはずだったんですけど・・・・・。進行上の手違いで、ラスト・ナンバーの紹介を忘れてしまいました。それでは、アンコールを、お、行ないます。」
 と、間抜けにさらに追い討ちをかけるようなコメントを発し、客席からの笑いを浴びてしまった。

 頭の中が真っ白な秀に、お構いなしに丈がシンバルを強打し、タムタムを「ドンタタドンタタ」と叩きはじめる。
 ベンチャーズを知っている人であれば「キャラバンができれば凄い」という時代であったし(今でも凄いとは思う)コンサートのアンコールはこれだ、と法律で決められているようなものであるから、何が何でも「キャラバン」を演奏しなければならない。

 メンバー全員極めてあいまいな出来栄えの状態であったが、一応秀は決め技のトリルだけは決めたし、浩二もカッティングの裏拍を力強く弾き通す。砂田はウォーキング・ベースのフレーズをきちんと把握していた。
 この曲の主役である丈は、メル・テイラーとジョー・バリルのおいしい所だけをミックスしたようなプレイではあったが、基礎の出来たスティックさばきで、10分前後のソロを叩き通した。

       

 途中、ベンチャーズさながらのベース打ちも披露し、砂田とともに客席の喝采を浴びた。
 そして最後には、まさにこのときのためだけに用意しておいたような、ツイン・バス・ドラムを「床も抜けろ!」とばかりに踏みまくり、ドラム・ソロの締めくくりを、大いに盛り上げた。
 ドラム・ソロ終了後のテーマ部分では、石浜恵美子の配慮で、客席から紙テープが飛び、それが秀のテレキャスターのネックにからみつくというアクシデントもあったが、最後にきて、本物のベンチャーズのコンサートのような盛り上がりを客席がみせてくれた事は、メンバーにとっては、ちょっとしたご褒美だった。

「キャラバン」を演奏し終わり、全員深々と頭を下げる中、演劇部の後輩が幕を閉じた。
 まばらに残る客席の拍手を聞きながら、秀と丈と浩二、そして砂田も顔を見合わせ、言葉はなくとも、お互い満足そうな表情で、笑顔を交した。全員、額に浮ぶ汗が、まぶしく輝いていた。

「赤いテレキャスター」を手に入れる所から数えれば、1ヶ月あまりの日々を費やして準備してきたT.A.D.の文化祭コンサートは、こうして幕を閉じたのであった。