33.文化祭(4)

 メンバー紹介の間に、アンプのつまみを微調整したりして、秀もいくらか落ち着きを取り戻した。
 続いて、フットスイッチがないので、浩二が手動でアンプのリバーブを目いっぱいに上げた。「ダイアモンド・ヘッド」だ。SGで弾く浩二のクロマチック・ランは、本当に「オン・ステージ’72」のドンの音によく似ていた。
 本来オルガンのイントロもギターで弾いた「輝く星座/アクエリアス〜レット・ザ・サンシャイン・イン」は、’71年と’72年のフレーズが入り混じった、奇妙なサウンドだった。
 その後の「ブルドッグ」も、’65年と’72年がミックスされた、というよりは、秀のコピーがまだまだ中途半端で、演奏スタイルもきわめて流動的だったと言える。

 さらに、
「二人の銀座」
「さすらいのギター」
「アウト・オブ・リミッツ」
と、時間の都合もあり、曲紹介もせずに一気に演奏したT.A.D.であったが、広い講堂で、ほぼ満員の客席を前にステージに立っていて、秀は実に気持ちが良かった。アンプの音が、客席後方まで響いて行き、何とも言えぬ開放感を味わった。
 それは、丈や浩二も同じだったろう。
 砂田は、時おり頭の中が真っ白になったかのような苦戦を強いられながらも、足元のコード譜を見ながら
腕の良さでカバーしつつ、健闘していた。

 そして、第1部のラスト・ナンバーは「ワイプ・アウト」だ。
 記憶に新しいジョー・バリルのイメージをふんだんに盛り込んだ、丈のソロが炸裂、秀も持てる力のすべてを振り絞って、アドリブを弾いた。
 第1部が終ると、秀は一端楽屋に引き下がり、浩二がマイクで、
「ここで、ゲストをお迎えしましょう。」
と、葉山次郎を紹介した。
 次郎は、ジェリー・マギーのように、口をやや開き加減にして、自慢のグレコのレスポール、EG420を斜めに構えて、
「ワイルドで行こう」
「ドライヴィング・ギター」
「京都慕情」
を演奏した。
 秀はステージを降りて、ステレオ録音している宮田君と志垣の横に立って、バンドの音を客観的に聴いてみた。
 次郎は最初こそ若干固くなっていたが、レスポールらしい粘りのある音で、ジェリー・マギーのサウンドを、よく再現していた。

 次郎が楽屋に引き下がった後、人付き合いが広く、人望の厚い浩二が、女の子数人からの花束を独り占めにしている間に、秀は再びステージに戻り、ワウワウのスイッチを入れて待機した。
「第2部に移ります。ギミ・サム・ラヴィン!」
 浩二のMCとともに、丈のスネアの連打とツイン・バスが、場内にこだまする。

    

 それに合わせて秀がワウワウを踏みながら、ミュート・カッティングする。客席の手拍子が入らないのが淋しかったが、見ているのは大方が「ただの通りすがり」の人たちなので、仕方がない。秀は、頭の中に満場の手拍子を思い浮かべて、アドリブを弾いた。

 続いて、丈のシンバルの後に、浩二が気持ち良さそうにAmのコードをカッティングし始めた。
「京都の恋〜黒くぬれ」
のメドレーだ。本物のベンチャーズは「エレキ・シタール」といって、シタールというインドの楽器を出すように作られたギターで演奏するナンバーなのだが、当然エレキ・シタールなど持っていないので、ギターのままの演奏だ。
 秀は弾きながら、ダイナミックスのコンサートで、ジェリーがレスポールで弾いた「京都の恋」を思い出していた。

 それにしても、こんなに長時間、自分のバンドだけでステージを占領していられるとは、なんと贅沢な事だろう。演奏はベンチャーズに全然及ばないが、「持ち時間」だけでも本物と同じである点に、秀は大満足であった。