32.文化祭(3)

 四人は、客席から見て右側から、浩二、秀、丈、砂田の順に、所定の位置についた。
 「ベンチャーズ・オン・ステージ'72」のオープニングのように、秀と浩二は低音弦で「A」のチューニング音を出した。
 カセット・デッキのポーズ・ボタンに指を置いた宮田君が「いいぞ」とオープニングの合図を送った。
 丈のカウントとともに、演劇部員の後輩が緞帳を開いた。秀、浩二、砂田三人の低音弦のトレモロと、丈のハイハット連打が炸裂する。「クルーエル・シー」だ。

     

 イントロが過ぎ、テーマのメロディーを弾きながら、秀は客席を見渡した。いつの間にか講堂内は、ほぼ満員の盛況になっている。
 自分から見て左側に立つ浩二と目が合うと、お互い満足そうに、ニヤリと笑った。グレコのSGを斜めに構えて、力強くカッティングする浩二が、ドン・ウィルソンそっくりに見えた。
 右側では、丈が間に合わせとはいえ、ツイン・バス、ツイン・タムの、高校生バンドにしては豪華なドラム・セットに鎮座し、やはり満足そうにスティックを叩きつけている。
 その向こうで、足元に置いたコード譜を目で追いながら、黙々とプレイする砂田の姿も目に入った。
 秀の赤いテレキャスターは、このギター独特の乾いたトーンを、客席に向けて響かせている。本番二日前に受け取ったにもかかわらず、不思議なくらい手になじんでいた。
 視界の下の方に、テレキャスターの赤いボディーの色を常に感じ、秀は無上の幸福感と、心地よい興奮に包まれた。

 2曲目の「夢のカリフォルニア」をサラっと流し、3曲目は「アイム・ア・マン」だ。曲の出だしの砂田のベースのフレーズが、シカゴのスタイルだったため、丈がずっこけそうになりながら、なんとかリズムを元に戻した。
 テーマ部分が過ぎ、丈のドラム・ソロに入る。2ヶ月前に見たばかりの、ジョー・バリルのプレイをイメージした丈のソロに、秀がワウワウのカッティングをかぶせた。アンプとギターの角度に気をつけないと、ハウリングを起こす。時折「ピーッ、ピーッ」とアンプが悲鳴をあげている。
「チャカポコ、チャカポコ・・・」と必死でペダルを踏みながらカッティングをしていた秀は、丈のドラム・ソロが終ったのも気づかずに、テーマに戻る前の、Ebのコードを弾きそびれてしまった。自分では落ち着いていたつもりでも、やはり、かなり上がってしまっているようだ。

     

 あっという間にオープニング3曲を弾き終わると、打ち合わせ通り、石浜恵美子がステージ右袖から登場し、メンバー紹介をしてくれた。
「本日はお忙しい中、ジ・アドベンチャリー・ダイナミックスのコンサートにお越しいただきまして、ありがとうございます・・・・・」
 グレーのチェックのミニ・スカート姿が、後ろから見ていても眩しかった。
 本物のベンチャーズの男の司会と違って、かなりソフトで、ちょっとデパートの場内アナウンスのようであったが、卒なく四人を「クン」付けで紹介して、恵美子は控え室を通って、演劇の準備へと戻っていった。