28.続・赤いテレキャスター(1)

 文化祭のコンサートでは、T.A.D.は二部構成で約20数曲を演奏する事になっている。
 軽音楽クラブに所属していながら、単独でコンサートを行なう事により、またまたクラブ内で非難を浴びそうであったが、秀は本物のベンチャーズさながらに、たっぷりと演奏時間を使って、ステージに立ってみたかった。
 5月に軽音のコンサートに出て以来、少しずつレパートリーも増やしてきた。まだまだ不完全な物も多かったが、とりあえず曲数だけは、ベンチャーズのコンサート並みに用意した。
 二部構成にしたのは、もちろん「オン・ステージ'72」の真似をしたのであり、レパートリーもその中の大半を占めている。
 また、1部と2部の間に、ゲストという名目で葉山次郎の出番を設けるためでもあった。
 葉山は当日「ワイルドで行こう」と「京都慕情」を演奏する事になっていたが、3日前になって「ドライヴィング・ギター」も演らせてくれ」と言ってきた。
 ジェリー・フリークの葉山が、なぜこの曲を選んだのかは理解できなかったし、秀も気に入っていた名曲なので、ちょっと惜しかったが、ベンチャーズには他にもいい曲は山ほどある。秀は次郎に「ドライヴィング・ギター」を譲ることにした。

 秀や砂田、葉山が所属する演劇部も、丈と浩二の所属するブラスバンドも、文化祭公演に向けて、最後の準備でてんてこ舞いであった。
 T.A.D.のメンバーは皆、それぞれが所属するクラブの活動で、連日帰宅は夜遅くであった。

 演劇部の公演で秀が任されている、年配の郵便局員の役は、春の公演とは違って、台詞も少なくなかった。器用なタイプではない秀は、演劇の台詞を覚えたために、せっかく頭に叩き込んだノーキーのフレーズが、飛んで行ってしまわないかと心配だった。
 本番を前にして、T.A.D.のリハーサルがほとんどできないのが、秀には歯がゆかった。
 特に不安だったのは、今となってはほとんど「特別参加」状態になってしまった、砂田隆彦の事である。
 ベンチャーズに興味が持てない砂田は、30曲近くに増えたT.A.D.のレパートリーの半分も、きちんと把握していない。秀は当日のレパートリーの曲順で編集したテープと、簡単なコード譜を作って砂田に渡しておいたが、どれほどの効果があるかどうかは、当日になってみないとわからなかった。砂田は夏休み前から、ほとんど練習に参加していないのだ。
 秀は演劇部の練習の合間を縫っては砂田を誘い、二人だけのリハーサルをした。
 腕のよい砂田であるから、問題は曲を把握できるかどうかだけであった。なんとか本番までに、格好がつけばよいのだが。

 本番2日前、秀は丈とともに午後の授業を「自主休講」して、お茶の水へと向かった。
 注文していたテレキャスターのリフィニッシュが終ったとの連絡が、前日自宅に入っていたからである。とても授業が終るまで待っていられるものではない。
 約1ヶ月前と同様、丈と並んで、秀はチャキ楽器店の入り口をくぐった。