26.T.A.D.誕生秘話(1)

「ズーチャンベなんて、3月の軽音コンサートに出る時に、間に合わせで考えた名前だからな。そろそろ、まともなバンド名考えようよ。」
 秀が切り出した。
「そうだなあ。この名前じゃ、文化祭で他の高校から見にきた奴らに笑われちゃうよ。」
 浩二がうなずく。
「で、何かいい名前あるの?」
 と丈。秀は首を横に振る。
「いくつかは考えてるんだけど。これだって物が浮ばないから、二人に相談してるんだ。」

 最近は、’60年代中期以来の、空前のベンチャーズ・コピー・バンド・ブームのようで、インターネットをのぞけば、全国各地に、実に様々なバンドが存在する事が確認できるが、各バンドとも、そのネーミングには個性やポリシーが感じられて、思わずニヤッとさせられてしまう物も、数多い。
 その中で一番一般的なのは、そのバンドの地元の土地名を冠した「○○ベンチャーズ」というネーミングであろう。
 これは、
「自分たちは、○○をホーム・グラウンドとして、ベンチャーズのコピー・バンドをやっています。」
という名刺がわりとなり、実にわかりやすい。
 今だったら秀たちも、さしずめ「柏ベンチャーズ」などと名乗ったのであろうが、この当時、秀と丈と浩二には、そういった概念がなかった。

「バンド名には、だいたい2つのタイプがあるよね。ベンチャーズ、ビートルズ、みたいに、最後に「ズ」がついていて、短い名前のタイプと、もう一つは・・・。」
 秀が講釈をたれようとすると、丈が大きくうなずいて引き継いだ。
「グランド・ファンク・レイルロードとか、エマーソン・レイク・アンド・パーマーみたいに、熟語みたいなのとか、人の名前を並べたやつで、ちょっと長いタイプ。」
 すると浩二も、講釈に加わる。
「長いやつは、CSN&Yとか、E.L.P.とか、G.F.R.みたいに、頭文字のアルファベットで短縮する事が多いね。」

 うんちくが一回りした所で、秀が話を元に戻した。
「できれば、ベンチャーズに語呂が似てるやつ、例えば『ランチャーズ』みたいなのがいいんだけど・・・。何かあるかな?」
 丈も浩二も日頃から何かとバンド名は考えていたらしい。まず丈が、
「ウェンチャーズは? 語呂もスペリングも、ベンチャーズにそっくりだよ。」
と提案した。
 しかし浩二がしかめっ面で首を横に振る。
「それじゃあ、ズーチャンベとほとんどレベル変わらないじゃないか。それより、サンダースはどうだい。おれ、コンバットのサンダース軍曹が好きなんだ。」
 今度は秀が反対する。
「サンダース軍曹はカッコいいけど、ベンチャーズと関係ないもんなあ。そうだ、ベンチャーズの曲名からつけるのはどうだろう。ブルドッグスとか、マンチュリアン・ビーツとか。ブルー・スターズもいいかな。」
 これには丈と浩二が揃って反対した。
「それじゃあ、三流のグループ・サウンズみたいだ。」
「なんだか、いかにもリズム感の悪いバンドって感じがするね。」

 その後、延々と三人の口から、どうしようもないバンド名が出ては、お互いに打ち消しあい、ちょっと疲労を感じたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。