25.金のレスポール(3)

 生のダイナミックスを、最前列で見た強烈な印象は、かなりの「後遺症」を秀に残した。
 とにかく、自分の数メートル先で、本物のジェリー・マギーが演奏していた、という動かし難い事実を思い出す度に、興奮がよみがえってくるのである。
 ジェリーの使っていた、ギブソンのレスポール・ゴールド・トップがまた、彼に似合っていて、本当にカッコよかった。
 つい半月前にテレキャスターを購入しながら、赤く塗り替えるために、すぐには手元に入らないという事態になり、ちょうど出鼻をくじかれた所でもあった。その隙をついて、ジェリー・マギー旋風が秀の中を、あっという間に席巻してしまったのだ。

 ダイナミックスを見た翌々日から、バンドの練習の時、サンバーストのグレコ製レスポールを構える秀の姿が見られるようになった。
 このレスポールは、丈が高校入学の時に親に買ってもらったものだ。
 生のジェリーを見てから「レスポールもいいなあ」と盛んに言う秀を見かねて、丈がしばらくの間、自分のギターを秀に貸すことにしたのである。
 色こそゴールドではなかったが、とりあえずジェリーの雰囲気を疑似体験できて、秀はご満悦であった。
 ダイナミックスを見た翌日に、レコード店の楽器売り場で買って来たサム・ピックを使って、慣れないフィンガー奏法で、ベンチャーズ・ナンバーを弾いて見た。
 しかし、所詮ジェリーのフレーズをきちんとコピーしている訳ではなく、フィンガー奏法のトレーニングも積んでいないので、まったく初心者のような演奏になった。ジェリーのイメージだけが、秀の頭の中で先走っていた。
 見るに見かねた浩二が、
「虹、お前、ダイナミックス見てから、急にギターが下手になったぞ。」
と、たしなめたほどであった。
 しかし、ジェリー・マギー遊びも、程々にしておかなければならない。
 9月15日の文化祭まで、あと一週間しかない。文化祭のコンサートのために用意した曲は、すべてノーキー・スタイルのアレンジであった。

 二学期に入ってすぐ、秀は生徒会の文化祭実行委員会に、講堂を使ってのコンサートを申請して、認可を受けていた。
 名目は「有志エレキ・バンド」であった。前の年の文化祭で、同じく講堂を使ったグランド・ファンク・レイルロードのコピー・バンドが「有志ロック・バンド」という名目で申請していた例に倣ったのである。
 当日、講堂では秀たち「ザ・ズーチャンベ」の他に、いくつかの出し物が予定されていた。
 その中には、演劇部の公演も入っている。
 春に男優として実績を作ってしまった秀は、年配の郵便配達員の役で出演する事になっており、こちらの方の練習や準備も忙しかった。
 丈と浩二が所属するブラスバンドは、講堂よりも、もっと収容能力の大きい体育館で演奏する事になっている。
 高校の年中行事では一番大きいイベントに向かって、誰もが一直線に進んでいた。

 当日一週間前の昼休み、秀と丈、浩二は、校舎の屋上でちょっとした話し合いをしていた。文化祭前で、普段は人の出入りが少ない演劇部室も、さすがに何かとあわただしかったからだ。
 話し合いの内容は、バンド名についてであった。
 いくらなんでも「ズーチャンベ」では、あまりにも情けないだろう、という意見が誰からともなく出たのである。