24.金のレスポール(2)

 9月6日のダイナミックス千葉公演の当日の朝、秀と丈は始業前に、葉山次郎のいる教室に駆け込んだ。
 二人より一足先に、前日の渋谷公会堂公演を見た次郎の感想を聞くためである。
「どうだった?」
「すごかったか?」
 二人の問いに対し、次郎は遠くを見るような目つきで、うっとりとした口調で答える。
「いやあ・・・・・。筆舌に尽くしがたい、という感じだなあ。」
 まったく言葉にできないという次郎の表現は、かえって秀と丈の期待と興奮をかきたてた。
 どうにも我慢ができなくなった秀と丈は、午後の授業を「自主休講」して、昼食もとらずに千葉県文化会館へと向かったのであった。

 さて、コンサートの詳しい内容は、
「文字で聴くベンチャーズ・オンステージ特別編/メル・テイラーとザ・ダイナミックス1973年9月6日千葉県文化会館公演」
 に譲ることにして、その帰り道の秀と丈の様子から話を進めることにしよう。

 ベンチャーズの東京公演を見た後と同様、二人ともダイナミックスを生で見た興奮で、文化会館から国鉄千葉駅に向かう途中も、電車に乗ってからも、話が尽きる事がなかった。
 特に、コンサートを最前列で見られた事、コンサート前にメル・テイラーと、終了後にはジェリー・マギーと握手できた事は、その日のダイナミックスの演奏以上に、二人をエキサイトさせていた。

「ジェリーが、あんな変なピックを親指にはめて弾いているとは知らなかったなあ。」
 秀はまだ「サム・ピック」という物を見たことがなかったのだ。
「ブリッジのところに、トレモロ・アームが付いていたけど、音程が上がっていたね。あれはなんだったんだろう。」
 丈も観察力の鋭い所を見せるが、二人とも「パーム・ペダル」を知らなかった。
「ジェリーのレスポールって、金色だったんだね。ゴールデン・ヒット・フォリオの写真じゃ、完全に緑がかった銀色だったのに。」
 照明の具合で、写真に写るギターの色など、いくらでも変化するのだが、実際に間近でジェリーのギターを見た秀の脳裏には、「レスポール・ゴールド・トップ」の、眩しい金色がくっきりと焼きついていた。

 二人の話は、もちろん他のメンバーについても触れられるのだが、ジェリー以外の話題となれば、もちろんメル・テイラーの事が中心である。
 丈が溜息をつくように言う。
「やっぱりメルは、凄い迫力だったよ。スティックなんて、ブラバン練習用のやつぐらい太かったもんな。」
 秀もうなずいた。
「やっぱりツイン・バスってかっこいいね。なんとか文化祭には、バスドラもう一つ用意しようよ。」
 船橋で国鉄総武線から、東武野田線に乗り換えたが、二人の話はひっきりなしで、止まる事がなかった。

 柏駅に着いて、名残惜しいのをこらえきれない二人は、高校の部室棟に泊まることにした。高校は柏駅からすぐの場所にあった。
 駅前で食料と飲み物を仕入れた後、
「そうだ、葉山にも声をかけてみよう。」
ということになり、柏市内に住む次郎に電話すると、
「わかった、すぐ行く。」
という返事だ。
 無断宿泊は、当然禁止されているが、二人は裏門から校内に忍び込み、演劇部室に腰を落ち着けた。
 ほどなく次郎も駆けつけ、三人は、時おり見回りに来る警備員に注意を払いながらも、明け方までダイナミックスやベンチャーズの話を、情熱的に交わした。

 ノーキーに対する敬愛の情から、今ひとつジェリー・マギーの魅力を素直に認めずに来た秀であったが、この日を境に、彼の中でヒーローが2人、並立する事になったのである。