23.金のレスポール(1)

 さて、話は多少前後するが、ベンチャーズを脱退したメル・テイラーの新グループ「ザ・ダイナミックス」は、本家ベンチャーズより遅れること半月あまりで来日し、7月の下旬から日本各地でコンサート・ツアーを行なっていた。
 7月25日にベンチャーズを見た秀であったが、ジェリー・マギーのリード・ギターも見ておきたかったので、ダイナミックスのコンサートにも行くつもりでいた。

 いまやすっかり、ベンチャーズの情報収集係となった丈が、コンサート・スケジュールを調べたところ、ツアー前半の東京公演は、初日(7月24日)の渋谷公会堂、27日の豊島園ともに終ってしまっている。関東とはいえ、9月4日の足利は、当時の秀たちには遠すぎる。
 したがって、狙い目は9月5日の渋谷公会堂か、9月6日の千葉県文化会館という事になった。
 
 浩二は、ドン・ウィルソンのいないダイナミックスには今ひとつ食指が動かないらしく「俺は遠慮しとくよ」と言う。
 ジェリー・ファンの葉山次郎に声をかけると、彼は彼で独自に動き、すでに9月5日のチケットを購入したという。
 そこで秀と丈は、二人で話し合い、柏から行くならいくらか近いであろう、9月6日の千葉県文化会館の方を選んだ。
 8月の下旬のある日、秀と丈は、国鉄千葉駅に隣接するそごうデパートに足を運び、その中にあるプレイガイドで、ダイナミックスのコンサート・チケットを購入した。
 慎重に座席表を見ながら、「なるべく前の方で、ジェリーの正面」の席を選んだ。前から10列目あたりの席を手に入れる事ができた。
「やったね、この位置なら、ベンチャーズの時より、かなりよく見えるぞ。」
 コンサート鑑賞の経験が少ない二人は、この程度の座席を確保しただけでも、単純に喜んだ。

 高校2年の夏休みも、残り少なくなった。8月前半まではアルバイトでがんばり、後半は9月の文化祭コンサートに向けて弾きまくるぞ、と意気込んでいたにもかかわらず、テレキャスターは再塗装中で、手元にない。
 歯がゆい思いをしながら、秀はジャパン・モズライトを担いでは、休み中の高校へ行き、丈や浩二と音を出して、文化祭コンサートに備えた。
 時々葉山二郎も顔を出した。彼は自分のバンドを組んでいなかった。この時代、ベンチャーズのコピー・バンドを組もうといっても、そうそうメンバーが見つかる訳がないので当然だが、勢い、二郎がバンドで音を出そうと思えば、秀や丈、浩二の所へ来るしかない。

 二郎は文化祭で3曲ほど弾かせてくれ、と言ってきた。そのかわり、他の高校の友達から、120Wのアンプを借りてきて提供する、という。
 この頃、120Wもの出力を備えたアンプは、めったにその辺でお目にかかれるものではない。これは、二郎にとって強力な武器ではあったが、それがなくても、同じベンチャーズ・ファン同士、二郎が数曲リード・ギターを弾きたいといえば、秀も丈も浩二も、快く承諾した事だろう。

 夏休みの終わり近く、秀は春休み以来久しぶりに渋山ゆりと会った。
 お互い、アルバイトなどで都合がつかず、ようやく夏休み中に再会となったのだが、今度は若者らしく、後楽園の遊園地で1日を過ごした。
 9月の文化祭で、秀がコンサートを開く事を聞いたゆりは、
「必ず見に行くわ。」
と約束してくれた。

 そうこうしているうちに夏休みも終わり、二学期が始まった。そして、9月6日、メル・テイラーの結成した新グループ、ザ・ダイナミックスの千葉県文化会における、ツアー・最終公演の日がやってきた。