20.赤いテレキャスター(5)

 兄の思わぬ援助によって、新しいギターの購入資金に大幅な余裕が出た秀は、翌日、さっそくお茶の水へと出かけた。
 自分の事のように、秀のテレキャスター購入を楽しみにしていた丈も同行する。
 お茶の水に向かう途中の、二人の話題は「果たしてグレコの赤いテレキャスターが存在するか否か」であった。
 秀は国産のエレキ・ギター・メーカーでは、グレコが一番のお気に入りであったので、カタログに載っていない、赤いカスタム・モデルが存在するのを祈っていた。

 お茶の水に着くと、迷うことなく石橋楽器店に直行した二人は、とりあえずエレキ・ギターのコーナーで、ズラリと並んでいる国産のエレキを、一通り眺め回した。
 やはり、赤いテレキャスターは一本もない。グレコ以外のメーカーでも作っていなかった。

「すいません。」
 秀は一番近くにいた店員に声をかけた。秀や丈よりちょっとだけ年上、という感じの長髪の若い店員だった。
「どんなギターがいいのかな? もう決まってるの?」
 エレキ・ギター売り場には欠かせない「客に敬語を使わない」店員である。
「えーと、テレキャスターが欲しいんだけど、グレコのテレキャスターって、TE−280しかないんですか?」
「そうだね。グレコはこれしか出してないね。」
「カタログに載っていない上位機種とか、オーダー・メイドとかは、ないんですか?」
「ああ、そういうのもないねえ。TE-280じゃだめなんだ?」
「赤いテレキャスターが欲しいんですよ。」
 秀はその後に(ベンチャーズのノーキー・エドワーズみたいな)と続けようとして、やめた。どうせこの手のお兄ちゃんは、ジミー・ペイジとか、エリック・クラプトンしか知らないに違いないのだ。
「ああ、ボディーが赤ねえ・・・。」
 店員のお兄ちゃんは、アゴに手をあててしばらく考えていたが、
「ちょっと待ってて。今、オーダー・メイド以外の方法を相談してくるから。」
と言って、奥にいたいくらか年配の、フロア責任者、といった感じの店員と、何やら話しだした。

 しばらくして若い店員は、責任者風の店員を連れて戻ってきた。
「いらっしゃいませ。話は伺いました。」
 責任者の方が、むしろ言葉が丁寧だった。
「グレコには、オーダー・メイドという制度はありませんので、お客様がどうしても赤いボディーをお望みならば、リフィニッシュという方法もありますよ。」
「リ、リフィニッシュ?」
 初めて聞く専門用語に、秀も丈も言葉が続かなかった。
「リフィニッシュというのはですね。つまり再塗装、色の塗り替えです。」
「はあはあ・・・。」
「普通、新品のギターをリフィニッシュ、というのはあり得ないんですが、お客様の場合、どうしても赤いボディーがよろしいという事ですので。」
「そうですか。」
「そういった方面の専門店を、うちがご紹介しますから、よろしければ、そちらの方でリフィニッシュの加工をされたらいかがでしょう?」
 これはまた、予想もしない展開になった。新品で未使用のギターの色を、塗り替えてしまうというのである。