18.赤いテレキャスター(3)

 浩二の家に着いた二人は、玄関で呼び鈴を押さずに、いきなり庭の方へ回った。浩二の部屋が、庭に面した1階にあったからで、いつもそうしていたのだ。
「おーい。」
と二人が外から声をかけて中を覗くと、浩二は自室の横にある無線室で、ハム(アマチュア無線)の交信をしていた。
 浩二は父親や弟とともに、親子二代のアマチュア無線家であり、この時点ですでに交信一万局を軽くクリアしていた。それで、家の中に無線室などという贅沢な物が存在するのだ。
「おう、来たか。まあ、上がれや。」
 浩二は、ヘッドホンをはずしながら、いつもながらの落ちついた笑顔で振り返った。
 庭から浩二の部屋に上がり込んだ二人は、おみやげ代わりの飲み物や食べ物が入った袋を手渡した。
 秀と丈は、多少の冒険心もあって、缶ビールを買ってきていた。アルコールが苦手の浩二には、コカ・コーラとセブン・スターだ。三人の中で、浩二は唯一の喫煙家(?)であった。

 高校二年生三人の、ちょっと背伸びをした宴会が始まった。
「よし、テレビでも見ながらやろうぜ。」
 浩二は秀と丈を居間に案内して、テレビのスイッチを入れた。「11PM」タイプの、ナイト・ショーと呼ばれる、夜のワイドショーが始まっている。
 いっぱしの大人になったような気分で、缶ビールで乾杯しているうちに、丈が素っ頓狂な声を上げた。
「あれ、今、ノーキーが映らなかった?」
 浩二も、
「いや、ドンもいたよ。」
 ナイト・ショーの、この日の出演者全員が立ち並んで、顔見せをしていたのだが、その一番後ろの列の中に、秀も確かにベンチャーズのメンバーの顔を見たと思った。
 
 いくつかのコーナーを経て、ゲストの出演する場面となった。
 司会者の紹介とともに、スタジオにセットされたステージに、ベンチャーズが登場した。
「やった、やっぱりベンチャーズだ!」
 ベンチャーズのコピー・バンドをやっている高校生三人のささやかな宴会に、神様がちょっとしたプレゼントをしてくれたようだった。

 演奏した曲目は、「ウォーク・ドント・ラン」と「ダイアモンド・ヘッド」であった。
 その他、小山ルミも登場して、ベンチャーズをバックに「さすらいのギター」を歌った。
 7月25日に三人で、初めて生の姿を見て以来の「動くベンチャーズ」の姿である。コンサートの時は席が遠くて、何が何だか、よく見えなかったが、テレビではメンバーの顔や楽器、そして指先の動きまでもが、よく見える。
 三人は短い時間ながら、新メンバーのジョー・バリルのちょっと変わったドラミングや、ボブやドンのオリジナリティー溢れるプレイ、そしてノーキーの鮮やかな赤いテレキャスター・サウンドを堪能した。
 「ダイアモンド・ヘッド」で、ドンが1コーラス終了後、一人だけサビのコードを弾いてしまう、というオマケまでついて、酔いの廻った秀と丈は大騒ぎ、浩二も美味そうにセブンスターをふかしている。

 途中、ドンによる新メンバーの紹介があり、
「This is Joe Barile, Back on the Drums.}
というドンの言葉に対し、カメラに向かってきちんとお辞儀したジョーの、初々しい表情が印象的であった。

 番組が終ると、酔いを発散したくなった三人は、散歩と称して外に出た。
 酔いに任せて三人は、歩きながらベンチャーズのギターのメロディーやコード・カッティング、ドラムのリズムを口ずさむ。
 ベースのパートがいないのがちょっと淋しかった。

 秀は、ノーキーのフレーズを口ずさみながら、頭の中では、自分の肩に赤いテレキャスターを下げている姿を想像していた。