16.赤いテレキャスター(1)

 さて、コンサートの詳しい内容は、いずれ掲載予定の「文字で聴くベンチャーズ・オン・ステージ特別編第2弾-----1973年7月25日 東京郵便貯金ホール」(あるいは、似た雰囲気でよろしければ、同コーナーの「オン・ステージ’73」をご覧下さい。)に譲る事にして、コンサート終了後、家路につく秀と丈、浩二の姿から話を進める事にしよう。

 初めてベンチャーズの生の姿を見た三人は、コンサートの最中から興奮の連続であったが、ホールを出て浜松町の駅に向かう間も、その熱気は容易には冷め遣らずであった。
 三人三様の感想を、各々が勝手にまくしたて、まったく会話にならない状態であったが、本人たちはお構いなしである。
「やっぱりノーキーはうまい!ネックなんか見ないで、客席見て笑いながら、余裕で弾いてたもんな。」
と秀が言えば、
「ジョー・バリル凄いよ! まさか、キャラバンのドラム・ソロが叩けるなんて思わなかったよ。」
と丈。浩二はもちろん、ドンの話題だ。
「ドンはへんなギター(ジャズ・マスター)使ってたなあ。俺は、SGの方が好きだ。」

 山手線から日暮里で常磐線に乗り換えても、三人の話題は今日見たベンチャーズの事で、尽きることなく、延々と続く。
「まさか、ノーキーがクラシカル・ガスをやるとは思わなかったよ。ノーキーぐらいになると、何でも弾けるんだね。」
「ジョー・バリルは、けっこう間違えていたみたいだけど、エイト・ブラザースがカッコよかった。」
「ドンは、演奏中にジョーの所へ行って、何か話しかけていたけど、あれはきっと、ジョーに注意を与えていたんだよ。さすがは、ドン・ウィルソンだよ。」

 三人ともバンドをやっている時の、自分のパート担当のメンバーに、一番興味があるので、当然その話題が中心の発言になるのだが、もちろんベースのボブ・ボーグルに関する事だって、話に出てこない訳がない。
「ボブは今年はバイオリン・ベースじゃなかったね。あれ、なんていうベースなんだろう?」
「知らないけど、バイオリン・ベースより似合っているかも知れないね。」
「インタビューの時の、『ワカサダヨ、ヤマチャン』がよかったなあ。」

 こうして、記念すべき秀と丈、浩二の、生ベンチャーズ初体験の夜は更けていったが、帰宅後、秀は寝床に入っても、なかなか寝付けなかった。
 目を閉じると、ジョーの豪華絢爛なドラム・セット、ドンの変なギター(この時、まだジャズ・マスターを知らなかったのだ)、ボブのカッコいいベース(やはり、プレシジョン・ベースを知らなかった)、そして、ノーキーの赤いテレキャスターが浮かんできて、秀の頭の中で、またコンサートが始まってしまうのである。

 秀は、事前の「ベンチャーズはヴォーカル・グループに変身した」という情報を鵜呑みにして、安くて遠い2階席を買ったことを後悔していた。実際に見てみれば、女性歌手のスーザン・シュレイバーは「雨の御堂筋」と「京都の恋」を英語で歌っただけの、ほんの顔見せで、ベンチャーズのスタイルそのものは、何の変化もなかったのだ。
 次にベンチャーズを見るときは、絶対に1階の前の方の席で見るぞ、と心に決めたのであった。

 それにしても、去年に引き続きノーキーが使っていた、赤いテレキャスターは、最高にカッコよかった。
 秀も早くテレキャスターを弾いてみたかった。それも、できれば赤いボディーの。
 それには、とにかくアルバイトを頑張らなければならない。
 翌日に備えて秀は、冴える目を無理矢理閉じて、眠ろうと努力した。