13.侵略者たちの分裂(2)

 その休み時間は、あっという間に過ぎてしまったので、昼休みに詳しい話を聞くことにした。
 昼食をすませ、演劇部室で待っていると、ほどなく丈と浩二がやってきた。

 メル・テイラーがベンチャーズを脱退した事は、朝、聞いた。その続きが丈の口から語られた。
「メル・テイラーは、ジェリー・マギーやジョン・ダリルと新しいグループを組んで来日するらしいよ。」
 これは意外な事になったものである。
 ボブ・ボーグルとドン・ウィルソンを除いた、’69年〜'71年のラインナップの復活である。
「へえ、日本に来るのか。それで、メルの抜けたベンチャーズはどうなっちゃうの?」
 落ち着いた物腰の浩二を間にはさんで、丈と秀の応答が飛び交う。
 「それが、新しいドラマーを入れて、やっぱりもうすぐ来日するらしいんだ。」
 実際は、この時期、詳しい来日スケジュールはすでに出ていたのだろうが、まだまだそのあたりの情報を仕入れる方法にうとい、高校生三人の、ちょっと間抜けな会話が続く。

「ええ、それじゃ、ベンチャーズが2つもいっぺんに来るの? メルのグループは、何て言うんだ。」
「今のところ、ニュー・ベンチャーズとか書いてあったような気がしたけど、正式じゃないみたいだよ。」
「ニュー・ベンチャーズかあ・・・。なんだか、カッコ悪いなあ。それより、ベンチャーズは大丈夫なのかなあ。メルがやめちゃって。」
「そうだね。かなり上手いドラマーじゃないと、代わりなんか勤まらないぞ。」
 ちょっと熱を帯びてきた秀と丈に対し、浩二は相変わらず自然体であった。
「うーん、俺は、ドン・ウィルソンがサイド弾いてれば、何でもいいよ。」

 その後、マスコミによって新しい情報が少しずつ報道されたが、何分にも当時のマスコミのベンチャーズに対する扱いが、かなり冷淡であったので、馬鹿にして茶化したり、いい加減な内容の記事が多かった。

 秀と丈、浩二が把握した情報の中で、確かなものと言えば、メル・テイラーがベンチャーズを脱退して、ジェリー・マギー、ジョン・ダリルの他に、スタジオ・ミュージシャンのギタリストとベーシストを入れて来日するグループ名が「ザ・ダイナミックス」となった事。
 メル・テイラーの後釜として、ベンチャーズに加入したドラマーは「ジョー・バリル」という若手である事ぐらいである。

    

 その他、まことしやかに
「ベンチャーズは、女性歌手を加入させ、今年からヴォーカル・グループとして活動する。」
という情報も流れたが、これが大いに秀たちを悩ませた。
 ドラマーがメル・テイラーでなく、得体の知れない新メンバーであるだけでも、十分がっかりさせられるのに、さらに、ヴォーカル・グループになったベンチャーズなんて、クリープを入れないコーヒーどころか、ラーメン屋に入って「麺類は終りました」と言われるようなものだ。

 新しい情報が入りにくい、当時の状況に加えて、招聘会社に問い合わせの電話をかけてみる、という事もしない自らの間抜けによって、秀と丈、浩二の中では、ベンチャーズは勝手に「ダイアモンド・ヘッド」も「パイプライン」もやらないバンドになってしまっていたのである。