12.侵略者達の分裂(1)

 演劇部とともに、軽音楽クラブにも所属していた秀は、5月末の軽音楽クラブのコンサートに出演する事にした。
 バンド名は、相変わらずなさけない「ズーチャンベ」のままであった。
 メンバーのうち、丈と浩二は軽音楽クラブに入っておらず、つまり、部費を納めていなかったので、クラブの方では部外者の出演に、あまりいい顔をしなかった。そこで、200円の臨時会費を払う事で、なんとか折り合いをつけた。

 3月に出演した頃と、たいしてレパートリーは変わっていなかったが、「キャラバン」が新たに加わっていた。
 出演バンドが多いので、1バンドあたりの演奏曲目は、3〜4曲が常識であったが、ズーチャンベは、1曲1曲が短いとはいえ、6〜7曲を演奏してしまう。「外人部隊(部外者を含むバンド)」である事もあって、クラブ内では冷たい目で見られる事になる。

 この時、秀も浩二も「フル・コピー」にはこだわらず、いくらか遊び心があって、「クルーエル・シー」のサビをツイン・リードでハモッたり、「アパッチ」のピック・スクラッチ(ヒュッ、ヒュッ)を二人で交互に弾いて、ステレオ感を出したりしていた。
 秀のプレイは、少しずつ進歩しているとはいえ、まだまだ「フル・コピー」と呼べる代物ではなかった。
 それでも「キャラバン」のテーマ部分2コーラス目のトリルは、パッと見ではかなり驚異的なテクニックに映ったらしく、演奏終了後、何人かの下級生が「どうやって弾いてるんですか?」と質問に来た。

 ブラスバンド部での毎日の訓練で、基礎が完璧に出来ている丈のドラミングは、レコードをよく聴いて、曲を把握しさえすれば、申し分ない物になっていた。この当時「キャラバン」のようなドラム・ソロを叩けるレベルのドラマーは、校内には丈の他に存在しなかった。

 もともとフォーク・ギター出身の浩二のカッティングは力強くて歯切れよく、まさにドン・ウィルソン役にはうってつけだった。こころなしか、顔の表情や体型まで似てきたのではないかと、秀に思わせる時があるくらいである。
 ベンチャーズでいえば、ノーキーとドンの位置関係ではあるが、それに初期のボブとドンの関係をあわせたような、浩二とのやり取りは、秀にとって、とても有意義なものであった。

 砂田隆彦は、相変わらずの義務的な演奏だったが、とにかく腕がいいので、プレイそのものは安定していた。もはや「CCRや、グランド・ファンクをやろう」などと言わずに、とりあえずコンサートの時には参加してくれる砂田に、秀は感謝していた。もちろん、ベンチャーズに興味がないのは、ちょっぴり残念であったが。

 こうして、丈や浩二という気の合った仲間と、勉強以外の事では、まさに充実した日々を送っていた秀であった。

 春から初夏へ、初夏から梅雨へと季節は移って行き、6月に入ったある日の事。
 1時限目終了後の短い休憩時間に、秀の教室に丈がアタフタと駆け込んで来た。そして、大きな目をさらに大きくして、
「虹、メル・テイラーがベンチャーズやめちゃったよ!」
と言うではないか。
「なんだって?」
 目を白黒させながら秀が聞き返す。
「うちの兄貴が読んでいた週刊誌に、記事が出ていたんだ。メル・テイラーがベンチャーズを脱退したって。」
 あまりに衝撃的な情報に、秀はすぐには返事も出来ないでいた。