8.春が来て・・・(1)

 春休みが終わり、高校2年生としての新学期が始まった。
 クラス替えがあり、秀は密かに中尾 丈や小林浩二と同じクラスになるのを期待していたが、秀はD組、丈はF組、浩二がC組と、見事にバラバラになってしまった。
 渋山ゆりには悪いが、ちょっと気になっていた岩村乃梨子とも別のクラスになってしまい、かなり淋しい新学年のスタートとなった。

 秀と丈、浩二は、クラスは違っても、ほとんど毎日の昼休みを、一緒に過ごした。
 ブラスバンド練習室が空いていれば、ギターとアンプを持ち込んで、三人で音を出した。
 そうでなければ、演劇部室で、備品のオープン・リールのテープ・レコーダーで「オン・ステージ’72」や「オン・ステージのすべて」をかけながら、あれこれとベンチャーズ談議をして過ごした。
 毎日が夢のように楽しかった。学業がまったくおろそかになり、授業中はつらかったが、丈や浩二に会えると思えば、通学自体は苦にならなかった。

 ところで、1年生3学期の終わり頃から、演劇部室に見たことのある男が出入りするようになっていた。
 1年E組のクリスマス会バンド「プラスチック・オカ・バンド」のリード・ギタリストで、ちょっとだけ高級なグレコのレスポールを持っていた、葉山次郎だ。
 葉山は、秀とは別のルートで、男子部員の足りない演劇部への入部を頼み込まれたらしい。
 どんな音楽が好きか、と聞けば、「クリーム」や「ストーンズ」新しいところでは「スレイド」などと、秀の知らないバンド名を挙げた。
 意外な事に、ベンチャーズにもちょっと興味がある、というので、秀はレコードを貸す事にした。
「オン・ステージのすべて」「オン・ステージ’72」「黄金シリーズ」など、持っているレコードを、すべて貸した。
 葉山はベンチャーズに対して、なかなかの好印象を持ったようで、特に’65年の「10番街の殺人」がよかった、と言った。
 ロック・ファンで、ベンチャーズのようなインストゥルメンタルに興味を示す人間を見たことがなかったので、秀はちょっとうれしかった。

 実は、この時点で秀は、葉山はおろか、丈や浩二にも「オン・ステージ’71」を聴かせていなかった。
 丈や浩二に’71年を聴かせるのは、なぜかとても危険な事のように思えたのと、葉山のようなベンチャーズ初体験派に「ベンチャーズって、こんなのだったのか?」と思われてはいけない、と勝手に心配したためである。
 この頃秀の中で、ジェリー・マギー、ジョン・ダリルの参加したユニットとしてのベンチャーズへの評価は、良くも悪くも半々であった。なんとなく心惹かれるものを感じながらも、「こんなのはベンチャーズじゃない」という、批判の気持ちも強かったのである。
 
 しかし、友人達に対して、ついに「オン・ステージ’71」の封印を解く日がやってきた。
 丈や浩二と、毎日のようにベンチャーズ談議をしている中で、うっかり「’71年のライヴ盤も持っている」と口を滑らせてしまったのだ。
 当然丈も浩二も興味を示し、秀はやむなく二人に「オン・ステージ’71」を貸す事にしたのである。