7.ジェリー・マギーとの出会い(5)

 小学校の頃からの憧れであった、渋山ゆりとの再会を果たし、夢見心地で帰宅した秀は、さっそく「ベンチャーズ・オン・ステージ’71」を袋から出した。
 買いたてのレコードに針を初めて落とす瞬間は、いつもながらワクワクする。
 変な場所に針が落ちて、レコードを傷つけないよう、慎重に、そっと一番外側に乗せた。

     

 この時期のベンチャーズの音は、スタジオ盤の「京都の恋」か、「さすらいのギター」ぐらいしか耳にしていなかったので、どんな演奏をしているのか、特にジェリー・マギーという、ノーキーの後釜のギタリストに興味津々であった。
 拍手と歓声に混じって「ブッ」とか「ジャッ」とか、ベンチャーズ自身の音が聞こえてきたかと思うと、日本人のおじさんの声で、英語のMCが入った。
「・・・・・ナウ、カミン、ザ・ベンチャーズ!」

 オープニングは「ワイルドで行こう」
 後に知ったところでは、オリジナルのステッペン・ウルフ盤は、かなりヒットしたらしいのだが、秀は知らなかった。
 それだけに、新鮮な気持ちて耳を傾けていたのだが、ジェリー・マギーのリード・ギターを聴いて、秀は何とも言えぬ感情に捕らわれた。
 ストレートなノーキーのリードに比べて、なんだかグニャグニャとして気持ち悪い。
 かと言って、聴くに耐えないほど不快かというと、そうでもない。
 ジャケットの写真からすると、金色のレスポールを使っているようだが、太くてコシのある音を出している。
 1曲目で抱いたイメージは、その後の曲を続けて聴き進んでも、まったく変わらなかった。
「パイプライン」「10番街の殺人」「アパッチ」「ダイアモンド・ヘッド」「ウォーク・ドント・ラン」「キャラバン」等の、おなじみの曲は、ノーキーとの対比がしやすく、より注意深く聴いたが、どれもまったく味を異にしていて、なんとも形容し難いサウンドであった。

 おおまかに言えば、一発で「凄い、素晴らしい!」と感激するような事はなかった。
「ワイプ・アウト」のソロはスピード感に欠けて、メルのソロの後、急に気が抜けてしまうようだったし、「キャラバン」もなんだか変てこだ。
「クラシカル・ガス」に到っては、こんなのエレキで弾く曲じゃないぞ、つまらない曲だな、とすら思った。
「ハートに灯をつけて」も、だらだらと長いだけで退屈だった。
 唯一「輝く星座」だけは、ノーキーに比べて遜色がないと思った。

 しかし、これはあくまでこの時点での印象である。
 秀は、ノーキーへの深い敬愛の情を固く維持しつつも、ジェリー・マギーの、一度経験したらやめられない不思議な引力に、徐々に引き寄せられていく。
 半年後、「メル・テイラー&ザ・ダイナミックス」のコンサートを見るに至り、その後のバンドのレパートリーの半数近くが「オン・ステージ’71」から取り上げられるようになるのだが、それはまだ先の話であった。