5.ジェリー・マギーとの出会い(3)

 よくも大した話題もないのに、これだけの時間が過ごせたものだ、と思った時には、まだ春浅い3月末の日は、暮れかかっていた。
 秀のこの時点での常識では、女の子は暗くならないうちに帰さなければならない。
 お互い1対1での面会に慣れていないため、楽しくもある反面、多少の気疲れもしていた。
 自然に、そろそろ帰ろうか、という事になって、有楽町の駅に向かって歩き始めたが、途中で秀は、ふと思い立ったようにゆりに聞いた。
「ちょっと、山野楽器というところに寄ってもいいかな。有名な楽器屋だから、一度行ってみたかったんだ。」
「あ、そのお店、ラジオのコマーシャルで聞いたことがあるわ。行ってみましょう。」
ゆりも秀に従った。

 銀座四丁目の角の近くに、山野楽器はあった。管楽器、ピアノはもちろんの事、国内外のエレキ・ギターも豊富に取り揃えている、とクラス・メートの三田村から聞いていた。
 フルートやサックスやピアノの売り場には目もくれず、ゆりを従えて、エレキ・ギター売り場へ直行する。
 国産のエレキ・ギターが裸で並んでいる奥に、フェンダーやギブソンの製品が、大事そうにガラスのショー・ケースに収まっている。お茶の水の楽器店以上の本数だ。

 秀は、ガラス・ケースに近づくと、何本ものテレキャスターが壁に下げられている前に立った。まるで、デパートのおもちゃ売り場で指をくわえているような状態の秀に、ゆりが、
「これが、いつも虹沢君が手紙に書いている、何とかっていうギターなのね。」
と声をかけた。我に返った秀は、
「そうだよ。これが、ベンチャーズのノーキーさんが使っているのと同じ、テレキャスターっていうんだ。」
と、思わず情熱的に答えてしまった。
「この間の冬休みには、郵便配達でアンプを買ったから、夏休みにまたバイトして、今度はテレキャスターを買おうと思っているんだ。」
「まあ、頑張っているのね。でも、このギター、22万円もするわ。」
 ゆりが値札を見て驚くのを見て、秀は苦笑いした。
「本物はとても買えないよ。国産のコピー・モデルなら、3万円ぐらいで買えるんだ。」

 ひとしきりギターを見物した後、秀は記念にフェンダーのピックと弦を買った。
 ゆりがレコード売り場を見たいというので、帰る前に寄る事にした。
 秋葉原のヤマギワ電気に行った時も、そのレコード数の多さにびっくりしたが、山野楽器は、さらにスケールが大きかった。
 ゆりが尾崎紀世彦やトム・ジョーンズのレコードを探すのに付き合った後、ベンチャーズのコーナーに行ってみた。
 やはり、柏のレコード店にはない物が、何枚もある。
 その中で、なぜかその時、秀の目を引くLPがあった。
「オン・ステージ'71」である。