4.ジェリー・マギーとの出会い(2)

 有楽町のホームには、10時15分前には着いた。ゆりはまだ来ていなかった。
 極度の不安と緊張が、秀を襲った。品川方面行きの電車が到着して、お客が降りてくる度に、似たような年頃の女の子は、全部ゆりに見えた。
 2年ぶりに会って、どんな顔をして、どんな話をすればいいのか。昨夕から考えては答えの出ない事が、まだ頭の中を駆けめぐっていた。

 10時5分前になった。また品川方面行きの山手線が、ホームに入ってきて止まった。ドアが左右に開いた。
 前から2番目の乗降口から、見覚えのある、というよりは、面影のある女の子が降りてきた。今度こそ本物のゆりだ。
 ゆりの方も、すぐに秀がわかったようだった。他の客の陰に姿を見え隠れさせながらも、一直線に秀の方へ近づいて来た。
「や、やあ、久しぶり。」
 一晩ほとんど眠れずに考えたあげくの第一声が、これだった。ちょっと声がうわずってしまった。
「ごめんなさい。待たせちゃったかしら。」
 ゆりも、少しはにかんだように言った。

 中学2年の時に比べて、ずいぶんきれいになったと思った。多少ニキビがあったのが、すっかりなくなって、満天の星を映したような、輝く瞳も相変わらずだ。
 秀が引っ越す頃は、ショート・カットにしていたのが、再びセミ・ロングに伸ばして、薄い水色のワンピースの上に白いカーディガンをはおり、やはり白い帽子がよく似合っている。
「いや、僕も今来たばかりだよ。」
 台本でも読んでいるかのような返事をして、秀は自分でも足が地に着いていないのが分った。

「渋山さん、見たい映画ある?」
「私はどんなのでも平気よ。虹沢君が選んだのでいいわ。」
「一応考えて来たんだけど。じゃ、行って見ようか。」
 恋人同志という訳ではないので、腕を組んだり手をつないだりはしない。二人並んで歩くだけだ。
 秀は、自分が右手と右足を同時に出していないかどうか、ふと気になったりした。

 銀座のとある映画館で、洋画のコメディーを見た。平日なので、座席は程よくすいていた。
 映画の上映中、笑える場面など、秀とゆりはなんとなくお互いに顔を見合わせて笑った。何か理由がないと、相手の顔が見られなかった。
 シャンプーの匂いだろうか、ゆりの髪の毛から、甘い香りがした。
 雲の上にいるような状態で、字幕を読むのもおろそかだったので、どんなストーリーだったのか、半分も理解できないままに、映画が終った。

 お昼時を少し過ぎた時間だ。
「お昼、食べようか。」
「そうね、おなかすいちゃった。」
「何か食べたいものある?」
「私は何でも平気よ。虹沢君が選んだお店でいいわ。」
 あくまでゆりは控え目であった。
 手紙のやりとりをしているので、お互い共通の話題がないことはなかった。近況報告や、思い出話をしながら歩いた。
 食事は、気の利いた店など知るはずもないので、有名な「不二家」に入った。
 朝の映画代も、昼食代も、秀は格好をつけて、一人で払った。ゆりはすまなそうに遠慮しながらも、その場は控え目に、秀に従った。
 それが、数時間後に、秀に思わぬプレゼントをもたらす事になるのだが・・・。

 食事の後、まだまだ日が高いので、日比谷公園まで、さらに歩いた。
 とりとめもない会話が続いたが、こんなに長い時間を、ゆりと二人っきりで過ごしているという事が、その場にいながら、半分夢のようだった。