3.ジェリー・マギーとの出会い(1)

 春休みも、毎日エレキを弾いて過ごしているうちに、半分が過ぎてしまったが、秀はふと、渋山ゆりに逢おうと思った。
 思えば、中学2年の終わりに、秀が引っ越して以来、手紙のやりとりだけで、実際には一度も顔を合わせていない。

 前の年のベンチャーズのコンサートを逃してからは、自分の行動力の向上を目指してきた秀は、何事も積極的に行こうと決心していたので、気持ちがくじけないうちに、ゆりに電話する事にした。

 電話番号が書いてある、ゆりからの年賀ハガキを片手に、ついつい受話器を置いてしまいそうになるのを、何度もこらえて、手にびっしょり汗をかきながらダイヤルを回す。
「トゥルルル・・・・・」
 回線のつながる音が聞こえた。自分からかけておきながら「うわ、つながっちゃったよ、どうしよう」と思っていると、「カチャ」という音がして、
「はい、渋山です。」
という女の子の声が応対した。
 よかった、ゆり本人が出てくれたようだ。
「もしもし、虹沢ですけど・・・。」
「まあ、虹沢君?本当に?」
 受話器の向こうから、かなり驚いたような声が聞こえてきた。
「渋山さんだよね?」
「うん、私よ。ねえ、声を聞くの、すごく久しぶりね。夢みたい。」
「そうだね。中学2年以来だもんね。」
「いつもお手紙ありがとう。すごく楽しみにしているのよ。」
「それは僕だって。ところで、春休み中に一度会いたいんだけど、都合のいい日ってあるかな?」
「まあ、本当に?虹沢君と会えるの?」
「いきなり明日とかいうんじゃ、急すぎるだろうから、都合のいい日に・・・。」
「あら、明日でも平気よ。何も予定はないもの。」
「そう?じゃ、明日、銀座あたりで映画でも見ようか。」

 なぜ銀座にしたのか、秀は自分でもわからない。なんとなくベンチャーズの「二人の銀座」がイメージとして残っていたのだろうか。

 ゆりの、はずむような返事が返ってきた。
「うれしい。すごく楽しみだわ。」
「じゃあ、10時に有楽町の、山手線のホームの、品川方面に向かって一番前で待ち合わせしようか。」
 出かけなれていない高校生の、ちょっと不恰好な待ち合わせ場所指定であった。

 その夜秀は、ゆりがどんな風に変わっているか、映画は何を見ようか、映画を見た後はどうしようか、いや、そもそも着ていく服がないぞ、などと考え始めたら、眠れなくなってしまった。

 明け方にうつら、うつらとしたかと思うと、目覚ましの音でたたき起こされた。
 男の友達との待ち合わせには、ほとんど遅れる事の多い秀であったが、今日だけは遅刻する訳にはいかない。
 母に対し、つけいる隙を与えぬ勢いで、
「今日は2年ぶりに渋山さんに会うんだ。来月の小遣い前借りさせてよ!」
 と、まくし立てた秀であったが、母もさすがに圧倒されたのか、
「今月はサービスしとくよ。」
と、特別ボーナスをはずんでくれた。

 バスと電車を乗り継いで、東京は国有楽町の駅まで、約1時間半の道のりが、長い様にも短い様にも感じられた。