2.発進(2)

 終業式前日ということで、その日は午前中授業であった。
 4時限目が終了すると、昼食もそこそこに、音楽室に軽音楽部員が三々五々集まってきた。皆で手分けしてコンサートの準備に入る。
 ギターは持っているが、アンプは持っていないという部員が多い中、秀のエーストーン35Wのアンプは、貴重な存在だった。
 他の高校から借りてきた大型アンプを除けば、秀のアンプが一番パワーがあった。

 秀、砂田、小林、中尾のグループは、予定通り一番手である。
 セッティングが終わり、まだ客席もまばらな状況であったが、音出しの時間になったので、4人はステージに立った。

 結成後あわただしかったので、バンド名をじっくり考える余裕がなかった。苦肉の策で暫定的に付けたのが、なんと「ザ・ズーチャンベ」という、情けない名前であった。
 ドラムは軽音楽部が用意したセットを使用。
 秀は黒のジャパン・モズライトに、エルクのワウ・ファズを接続した。
 砂田は例によって赤いモズライト型ベース。
 小林はクラスの友人から借りたグレコのSGを、ドン・ウィルソンと同じような高さに構えた。

 秀が、「オン・ステージ’72」にならって、低音弦のチューニングから入る。(注1)
 中尾のカウントが入った。
「クルーエル・シー」だ。
 秀のギターは、ちょっとファズの効かせ過ぎで、かなり歪み方がきたない。だが、演奏中はそんな事を考える余裕はない。
 時折、砂田のボソボソとしたMCを挟みながら、無我夢中で、
「ドライヴィング・ギター」
「アパッチ」
「ダイアモンド・ヘッド」
「ブルドッグ」
「10番外の殺人」
「ウォーク・ドント・ラン」
「パイプライン」
を演奏し、最後の「ワイプ・アウト」も、何が何だかわからないうちに終っていた。
 中尾のソロは、まだうろ覚えの状態であったし、秀のアドリブも、本人が思っている程にはコピーになっていない。
 だが秀は、フル・メンバー4人で8曲もプレイした事に満足していた。プログラムも、「キャラバン」の代わりに「ワイプ・アウト」を最後に持ってきた以外は、一応「オン・ステージ’72」の曲順を、出来る曲だけピック・アップしたものである。
 まるで、むずかしい漢字を知らない子供が、読める字だけ拾い読みしているような曲構成ではあるが、今後このメンバーで継続的に活動していくのであれば、レパートリーは自然と増えていくであろう。

 このコンサートを経て、中尾 丈と小林浩二の二人は、完全にベンチャーズの虜になったようであった。
 二人ともブラス・バンドの練習が忙しかったが、それ以外の余暇は、すべて秀との活動に充てるようになった。
 三人は、春休みも毎日のように何時間かは集まって、練習をするか、でなければベンチャーズの話をして時間を過ごした。
 ただ一人、砂田隆彦だけがベンチャーズに興味わ示さないのが残念であったが、相通じ合う仲間が二人も出来たのは、秀にとって、大きな収穫と言わねばなるまい。

(注1:「ON STAGE ’72」の冒頭で、実際に低音弦をチューニングしているのは、ドン・ウィルソンであるが、当時の秀は、モノラルのプレーヤーやテープ・レコーダーしか聴いていなかったので、ドンとノーキーの位置関係が把握できず、ノーキーのチーニング音だとばかり思っていた。)