第3章 情熱編

              1.発進(1)

 軽音楽クラブのコンサートは、終業式の2日前に、音楽室を会場として行われる事になっていた。
 クラブ内では新人バンドである秀たちのグループは、一番手で演奏する予定である。

 中尾も小林も、ブラスバンドの活動が忙しかったが、学年末試験が終っている事もあって、作れる限りの暇を、新しいバンドの練習に費やす熱意を見せた。

 ブラスバンド部の練習室には、中尾のドラム・セットが常設されていたので、ブラスバンドの練習がない曜日、時間を見計らっては、アンプを持ち込んでリハーサルを行なった。
 中尾も小林もベンチャーズに対して、秀の期待以上の関心を見せた。

 ブラスバンドで1年間、毎日のように練習台を叩いて、基礎がしっかりと身についた中尾だけに、蓄積された技術を発散させるには、ベンチャーズの楽曲は、うってつけの素材だったと言える。
 ベンチャーズの曲のドラムを叩く時の中尾は、実に楽しそうな表情を見せたものだ。
 ブラス・バンド部のパーカッション担当部員の中で、セット・ドラムを叩くのは、中尾だけであった。
 中尾の所持するセットは、PEARLのバレンシアという、一番安価なモデルであったが、この時代、バンドをやるのにドラム・セットをいつでも叩ける環境にあるだけ、幸運な事であった。

 リズム・ギターの小林は、ブラスバンドではトランペットを吹いていた。
 今にして思えば、これがトロンボーンだったら、ベンチャーズのドン・ウィルソンと一緒で完璧だったのだが、楽器の先端の「朝顔」の部分だけを比べれば、まあ似たようなものだ。
 小林は中学時代からギターを弾いていたが、フォーク・ギター出身なので、コードをかき鳴らすのは、もともと得意であった。
 秀から借りたベンチャーズのレコードで、ドン・ウイルソンのコード・カッティングを聴いて、
「俺が本当にやりたかったのは、これだ!」
と思ったという。

 バンドを組む際に、リード・ギタリストの座をめぐっての争いが少なくない、と聞くが、4人が4人とも、それぞれの持ち場にすんなりと収まったのは、実に幸運と言わねばなるまい。

 唯一、ベースの砂田だけは、相変わらずベンチャーズに興味が持てず、練習も出たり出なかったりという状況で、レコードのベース・ラインを全然覚えてくれなかった。
 ただ、腕は悪くないので、コード進行さえ把握していれば、無難なプレイはできる。この当時、ベースを弾く人材も、ドラマー同様少数派だったので、あまり贅沢は言えなかったのだ。
「砂ちゃんは、当日に一緒にステージに立ってくれれば、それだけで恩の字だよ。」
 秀は砂田本人に対してもそう言っていた。
 それでも砂田は、2〜3度は音合わせに顔を出した。

 そして、いよいよコンサートの当日となった。