23.グループ結成前夜(3)

 高校一年の3学期も、あっという間に日々が過ぎ、3月になった。学年末試験が終わると、毎年恒例の、卒業生を送る予餞会が待っていた。
 体育館で、ゲストを招き、ショーを見たり、ブラスバンド部や軽音楽部の演奏が行われたり、といった内容の催し物である。

 ちなみに、この年のゲストは「地下鉄の車輌は何処から入れるんでしょう?それを考えると、夜も眠れなくなっちゃう。」で有名な、三球照代のコンビであった。まだ売れて有名になる前だったので、高校の予餞会のような催しにも、出演してくれたのだろう。

 この予餞会の軽音楽部の出演ワクの中で、秀は2曲演奏する事になった。
 メンバーはベースに砂田隆彦、ドラムには2年生の先輩という、トリオ編成であるが、体育館のような広い場所で、がんばって買った35Wのアンプを使って大きな音で演奏するのは、実に楽しみな事である。
 演奏曲は「ダイアモンド・ヘッド」と「パイプライン」を予定していた。

 数少ないリハーサルを経て、予餞会当日となった。
 他の軽音部員とともに、楽器の搬入に汗を流していた秀は、ブラスバンド部員として準備中の、中尾 丈や小林浩二と顔を合わせた。
「やあ、今日、演奏するんだってね。楽しみにしているよ。」
 冬休み前のセッション以来、すっかり打ち解けた中尾が話しかけてきた。
「ブラバンもがんばってね。」
秀も激励を返した。後ろで小林が笑顔で手を振った。

 やがて、予餞会が始まり、校長挨拶、生徒会長挨拶等を経て、いよいよ「ショー・タイム」である。
 秀の出番は、一年生という事もあり、トップ・バッターであった。
 軽音楽部の中では秀に対し、今時ベンチャーズをやるなんて、遅れてるんじゃねえのか? というような空気が感じられていた。今回の出演が決まった時も、部長からは「もし7年前だったら、文句なくお前達がトリだよ。」と皮肉を言われたものだ。

 さて、本番だ。手早くアンプをセットし、ワウ・ファズを接続する。そして、黒いジャパン・モズライトを構えて客席を見た途端、秀の頭の中は真っ白になってしまった。
 こんな大人数の前に立ったのは、小学校の運動会で、副生徒会長として挨拶をして以来の事である。
 悪い事に「ON STAGE '72」のノーキーの歪んだ音を真似ようと、ファズのスイッチを踏んだ途端、アンプから「キィーン」というハウリング音が鳴り出して止まらなくなった。
 舞台の袖から先輩部員が飛び出してきて「立つ位置を変えろ!」と、慌てふためく秀を、突き飛ばすように両手で押した。
 これで完全に頭に血がのぼった秀は、何がなんだかわからないうちに演奏を始め、気が付いた時には終っていた。
 途中、ドラムとベースとメロディーが、ずれまくった事は、何となく記憶にあるが、演奏中は、とにかく一秒でも早く舞台を降りてしまいたかった。

 後で志垣に話を聞くと、演奏中の秀は、真っ赤な顔をして、客席から見ても、完全にあがっているのが、ありありとわかったという。

 しょげ返ってステージを降りた秀に、出番待ちの中尾が、
「よかったよ。ドラムの人が、ちょっとずれちゃったみたいだけどね。」
と言ってくれたが、明らかに慰めの言葉だった。
 野球で言えば、新人ピッチャーが3回を8失点でKO、といったところの、ほろ苦い、エレキ・ギタリスト虹沢 秀のデビューであった。