21.グループ結成前夜(1)

 冬休みに入ったその日から、秀は柏郵便局の、郵便配達のアルバイトに通った。
 初日から大雨にたたられ、前途多難を思わせたが、一度走り出したら止まる事は許されない。
 朝9時、数十名のアルバイト生たちは、タイムカードを押した後、会議室で約1時間ほどアルバイトの内容について説明を受け、その後、各々の部署に分かれていった。
 柏郵便局の募集には、内勤と外勤の2種類あったが、肉体的にきつい外勤のほうが、時給が50円高かった。
「オカ・バンド」の使用していた、エーストーンの20Wのアンプより、一回り大きい35Wのアンプをめざしていた秀は、予算に万全を期するため、迷わず外勤を選んだのだった。

 外勤組は、大雨の中、雨ガッパを貸与され、各々担当区域へ職員とともに出陣して行った。
 自転車は、初日は郵便局の物を使ったが、自分の自転車を使えば一日200円の手当が支給される事を知り、翌日からは自分の自転車で通う事にした。
 初日は職員の人に付いて回り、自分の担当区域を把握する事に終始したが、二日目から自分一人の力で配達を始めた。
 配達区域は、秀の自宅を含む、自分の庭のような範囲だったので、なんの問題もなかった。

 1日に配達する郵便物の量は、幅50cm、奥行き30cm、高さ40cmほどのケース1箱に目一杯ある。
 朝9時に郵便局を出て、夕方5時に戻るまでに、配り終わりさえすれば、どんな方法を用いても構わない、と職員からアドバイスを受けた秀は、朝一番は、郵便局からまっすぐに、まず自宅に戻った。
 そして、午前中に配る分と、午後に配る分を仕分けして、半分の重さになった郵便物のケースを、自転車の荷台にくくりつけ、さっそうと配達に出かける訳である。

 午前中の分を配り終えたら、自宅で昼食をとる事もできるし、何より他の人間とペースを合わせる必要がないのが、秀は気に入っていた。
 早めに配り終えたら、局に戻って内勤の手伝いをするように言われていたが、マイペースで配達していた秀は、いつも夕方5時ギリギリに郵便局に戻った。
 配達区域に自宅も含まれているため、自分宛の郵便物をいち早くチェックできるのも特権であった。

 配達中、中学時代の同級生に出くわす事もあって、ちょっと照れくさい思いもしたが、根岸真紗江のような美形に、
「まあ、虹沢君、郵便配達してるの? がんばってね。」
などと声をかけられた時には、ちょっとやる気が湧いた。

 大晦日、正月も返上で、雨の日も風の日も、秀は郵便配達に精を出し、冬休みが終わるまでに、3万5千円程のアルバイト料を稼いだのであった。