20.出合い(8)

 人のバンドの練習の合間を縫った、まったくの即興のセッションとはいえ、セットのドラムとベースが入った、本格的なバンドで弾くのは初めてなので、秀は緊張しながらも、喜びと興奮を隠せなかった。
 20Wという、けして大きくはないが、本物のアンプで音を出せるのも、うれしい。

「何をやろうか?」
と中尾が言うので、秀はちょっと考え、
「ブルドッグっていう曲だったら、Aのスリー・コードだから。テンポはこれぐらいで、イントロが、えーと・・・。」
 グレコのSGを抱えている、小林浩二という、物腰の落ち着いた男に「ブルドッグ」のイントロを説明しようとしたが、口ではうまく伝わらないので、秀が自ら弾きだした。
 中尾がそのテンポで8ビートを被せてきた。ブラスバンド部員だけあって、スティックの握りは、レギュラー・グリップだ。ベースの砂田は、秀との付き合いのうちに、さすがに「ブルドッグ」のイントロぐらいは把握している。テーマの部分に入って、小林もコード・カッティングで加わった。
 暖房が効いてきたせいか、いくらかチューニングが甘くなっている、と感じた秀は、弾きながら少しずつ糸巻きを微調整した。それを見た中尾と小林が「おっ!?」という顔をして目を合わせた。

 「オン・ステージのすべて」のバージョンを、かなり大まかにアレンジしたアドリブを何コーラスかプレイして、またテーマの部分に戻り、セッションは終った。
「いやあ、いいね。どうもありがとう。」
 秀は「プラスティック・オカ・バンド」の面々にお礼を言い、葉山次郎にギターを返した。
 すると、ドラムの中尾 丈が、
「ギターうまいね。また今度やろうよ。」
と言ってきた。
 いつぞやのポスター売りつけ事件以来、やな奴だ、と思っていたが、こうしてみると、本来はそんなに悪い人間ではないのかもしれない、と思った。
「うん。ぜひやりたいね。」
秀は、素直な気持ちで、笑顔を返した。

 冬休み前、高校側から、柏郵便局のアルバイト募集の情報が入った。年末年始限定の、要は年賀状配達の時期を乗り切るための、人員確保である。
 この募集に秀は乗ることにした。ギター・アンプを買う資金を稼ぐためである。
 志垣が提供してくれた「ラジオ・アンプ」は、十分役に立ったし、おつりが来るほどであったが、推定出力5W以下、スピーカーが口径10cmのオーディオ用では、あくまで個人練習用の域を出ない。
 今後、本格的なバンド活動をして行くためには、是非とも「オカ・バンド」の使っていたような、本物のギター・アンプが必要であった。
 冬休みの間を目いっぱい、郵便局でのアルバイトを頑張れば、ちょうど30W前後のアンプが買える計算である。

 柏郵便局に電話をすると、まだ定員に達しておらず、秀のアルバイトは決まった。
「稼ぐぞ。アンプ買うんだ。」
 生まれて初めてのアルバイトに、不安と緊張もあったが、それ以上に、エレキ・ギターの一番の醍醐味を、自分のアンプで体験したいという欲望が勝った。
「でかい音でベンチャーズを弾きたい!」
これである。