17.出会い(5)

 なかば騙されたような形で演劇部に入ってしまった秀であったが、砂田の言うとおり、男子部員は裏方としての立場だけで活動する事が黙認されていて、女子部員が屋上で「あ、え、い、う、え、お、あ、お」と、毎日のように大声を出している発声練習に付き合わされる事もなく、ほっとしていた。
 しかも、砂田以外に一人いるという男子部員は、普段全然顔を出さない幽霊部員であった。
 さらに、演劇部には、同級生の関矢真由美とか、吉川祐子といった、学年でも指折りの美形が揃っていたりして、それもかなり楽しみだった。
 秀は、それまで仮の宿としていた生徒会室から、演劇部室に活動の拠点を移した。

 砂田に連れられ、軽音楽部にも入部の挨拶に行ったが、長髪にベルボトムのジーンズがすっかりサマになっているロック畑やフォーク畑の部員だらけの中には、ちょっと入り込みにくかった。
 ちなみに秀は、テレビでノーキー・エドワーズが長髪にしているのを見て、ようやく髪を伸ばし始めたところであった。

 軽音楽部には、案の定、ベンチャーズに興味のある人間はおらず、とりあえず砂田と二人の活動を余儀なくされた。
 砂田に「ベンチャーズ・オン・ステージのすべて」を貸して、覚えて欲しい曲をいくつか指定した。
 砂田もCCRのアルバムを持ってきた。家で聴いてみたが、どの曲を聴いても今一つピンと来なかった。知っているのは「プラウド・メアリー」ぐらいであったが、とてもこの中の何曲かをコピーしてやろう、という気になれない。

 それは砂田とて同様だったようだ。興味の薄い音楽には、コピーしてやろうという情熱が湧かないものだ。
 とりあえずコンビを組んだ二人だったが、たいしたセッションもしないうちに、早くも自然解消への道をたどり始めたかのように見えた。

 秋から冬への気配を感じるようになった11月末の、強い雨の降る寒い日だった。
 秀は放課後、国鉄常磐線快速電車で、秋葉原へ向かっていた。
 今年のベンチャーズの実況録音盤を買いにいくためである。
 事前に柏駅前イトーヨーカ堂4階の新星堂で、発売日は確認してあった。
 この日は発売予定日の前日であったが、志垣が、
「秋葉原なら、確実に1日前に入荷しているはずだ。」
というので、それを信じて電車に乗ったのである。
 過ぎたことを悔やんでも仕方ないが、自分自身の行動範囲の狭さと、積極性のなさが原因で、今年のベンチャーズのコンサートを見逃した秀は、とにかくフットワークを軽くしようと、心に決めていた。
 たとえ1日でも早く、欲しいレコードが手に入るのなら、秋葉原まで行くぐらいは、何とも思わないようにならなければならないのだ。

 めったに遠出をしていなかった秀にとって、一般的には有名な秋葉原の電気街も、巨大な迷路であった。
 こんな時に頼りになるはずの志垣は、用事があって同行できなかった。
 降りしきる雨の中、大通り沿いを、とぼとぼと心細げに歩いていると、一番先に目に付いたのが「ヤマギワ電気」の7〜8階建てのビルだ。
 入り口横のインフォメーションを見ると、6階にレコード売り場がある。意を決した秀は傘をたたみ、店内に入った。エスカレーターがすぐに見えたので、それに乗る。ベルトをつかむ手に、なぜか汗をかいていた。

 レコード売り場に着いた。
 平日だというのに、すごい人の数だ。さすがは秋葉原だと思った。
 人の数もさることながら、陳列されているレコードの数もすごい。柏の駅前のレコード屋とは、何から何まで規模がけた違いだ。
 ベンチャーズのコーナーがどこにあるのか、さっぱりわからない。店員に聞くのも恥ずかしく、ウロウロと店内をさまよったあげく、秀はようやくベンチャーズのLPのコーナーにたどり着いた。

 そして、見つけた。
「ベンチャーズ・オン・ステージ’72」の黒いジャケットを。