16.出会い(4)

「やあ。」
 赤いモズライト型ベースを弾く手を止めて、砂田が微笑んだ。
「ねえ、それ、モズライトのベースじゃないの?」
 秀が驚いてたずねると、砂田は首を振った。
「違うだろう。友達から凄く安く買ったやつだから。」
 どうやら、安ければ何でもいい、という感覚で手に入れた物らしい。言われてみれば、ヘッドに何もマークが入っていない。秀はちょっとがっかりした。

「虹沢君、とりあえず、軽音と演劇部に入れよ。」
砂田が言う。
「いや、軽音はわかるけど、なんで演劇部に入らなきゃいけないの?」
「さっきも言ったとおり、ここに自分の楽器を置いておけば、安心なんだ。それと、演劇部は女子ばかりで、男子は僕を含めて二人しかいないんだよ。淋しいから、君もつきあえ。」
 砂田の言葉に、秀は困惑した。
「ええ?だって俺、演劇なんて、興味ないよ。」
「形だけの部員でいいんだ。裏方なんかを適当にやってれば済むんだから。」

 その時、部室に人が入って来た。2年生の女子生徒だ。
「あ、石浜先輩、男子部員が入りましたよ。1年D組の虹沢っていうんです。虹沢君、部長の石浜さんだ。」
 おい、おい、それはちょっと違うだろう、とあわてる秀をよそに、砂田は勝手に話を進めてしまった。
「まあ、砂田君、お手柄よ。うちは男子部員が少ないからうれしいわ。虹沢君っていうのね。私は部長の石浜恵美子。よろしくね。」
 見れば、石浜恵美子という先輩、なかなかの美形である。セミ・ロングの髪が肩にかかり、ちょっと気が強そうだが、知的な色香が漂っていて、魅力的だ。
 秀の高校のクラブ活動においては、2学期に入ると、受験を控えた3年生に替わって、2年生から部長が選ばれるのが慣わしであった。
 石浜恵美子はホヤホヤの部長という訳で、就任早々、貴重な男子部員を確保して、いかにもうれしそうである。

 秀は性格的に、強引に押されると弱いところへ持ってきて、魅力的な部長に話しかけられて舞い上がってしまい、
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
と、思わず答えてしまった。
 横でニヤニヤ笑っている砂田を見て、秀は、
「ちくしょう、はめられた。」
と思った。