14.出会い(2)

 違うクラスの中尾という男から300円で買ったポスターを、家に帰って広げてみて、秀はがっかりした。
 秀が想像していたのは、ステージ写真か、少なくともメンバー全員が楽器を持った姿であった。
 それがなんと、中年の恐いおじさん4人が、暑苦しく革ジャンパーを着て、薄暗い中でうつろな表情でこちらを見ている、という構図であった。

  

「しまった、中味を見てから買うんだったなあ。」
 こんなポスターに300円払うのだったら、普段は我慢している「月刊平凡」でも買ったほうが、まだ気が利いている、と思った。
(後年、このポスターを処分した事を、さらに長い年月を経て、今現在、非常に後悔している事は、言うまでもない。)

 さらに、後で知った事には、中尾という男、レコード屋でただで貰ってきたポスターを、秀に売りつけたらしい。
 それを志垣から聞かされた時、
「あいつとは二度とかかわるまい。」
と思った。
 しかし、せっかく少ない小遣いの中から300円出して買ったポスターだ。
 その時は気に入らなかったが、はじけるような水着姿の小柳ルミ子の横に、しっかりとセロテープで貼りつけた。

 余談ではあるが、ポスターといえば、秀が自転車で登校する時の道の途中に、民音の掲示板が立っていて、そこに9月23日松戸公演のポスターが、いつまでたっても貼りっぱなしになっていた。
 写真は前年のステージ写真で、ノーキーは入っていなかったが、ベンチャーズのポスターである、というだけで、秀には十分だった。
 そこで、ある日の下校途中、暗くなるのを見計らって、志垣に協力してもらい、そのポスターをはがして持って帰ってしまった。
(もう時効ということで、お許し願いたい。)

 10月も半ばを過ぎたある日の、2時限目が終った休み時間に、秀の教室に志垣が眼鏡を光らせながら入ってきた。
「虹沢、お前とバンド組んでもいいっていう奴がいるぞ。」
「なんだって?」
「俺のクラスにベースやってる奴がいて、虹沢と組んでみてもいいって言ってるぞ。」
 秀の目が輝いた。バンドを組むには、もう一人のギタリストと、ドラマーと合わせて4人必要だが、とりあえずベーシストだけでも確保しておこうと思った。
「そうか、ベースね。じゃ、そいつと会わせてくれよ。」
 志垣に、その男を昼休みに生徒会室に連れてくるよう頼んだ。

 どんな男か、どんな音楽が好きなのか、ベンチャーズに興味はあるのか?
 色々と想像して、まったく身の入らぬまま午前中の授業を終えると、昼食もそこそこに生徒会室に向かった。
 ほどなく志垣が、秀よりちょっと背が高めの、丸い眼鏡をかけた男を連れて入ってきた。