13.出会い(1)

 秋が深まり、10月に入った。
 いつものように昼休み、生徒会室で黒いジャパン・モズライトを弾いていると、志垣恒一が一人の男を連れてやって来た。
「やってるな。」
 眼鏡の奥にいくらか笑みを浮かべて一声かけた志垣は、ギターを弾く手を止めた秀に、
「虹沢、ベンチャーズのポスター欲しくないか?」
と言った。
「ああ、持ってないから欲しいとは思うけど。なんで?」
 すると志垣は、傍らに立っている男を紹介した。ポスターを丸めたらしい紙の筒を持っている。
「こいつ、俺と同じクラスの中尾ってんだけど。」

 中尾 丈。
 見れば、目のギョロっとした、初対面の印象のあまり良くない、ちょっとイケ好かない雰囲気のやつだ。
 出身中学が強制的に坊主頭だったのだろう、まだ完全に伸びきらずに中途半端な長さなのが、よけいにうさん臭い。
「で、こいつが、ベンチャーズのポスターを虹沢に売ってもいいって言うんだけど。」
 用件を聞いた秀は、ちょっと鼻白んだ。
(なんだ、くれるんじゃないのか。)
 だが、自分の部屋に、小柳ルミ子や南 沙織の他に、ベンチャーズのポスターの一枚でも貼って飾りたい秀としては、ついつい交渉に応じてしまった。
「いくらで売ってくれるの?」
 秀が聞くと、中尾は、
「いくらでもいいよ。」
と、目をギョロっとしたまま答えたが、
「300円でどう?」
という秀の言葉に、さらにギョロ目を大きくして、
「えっ? そんなに貰っていいの?」
と言うではないか。
 秀は(しまった、もっと安く交渉すればよかった。)と思いつつ、一度口に出した金額を下げるのも恥ずかしいので、
「うん、いいよ。300円で買うよ。」
と答えてしまった。
「今日はお金もってないから、後でいいかな?」
「お金はいつでもいいよ。じゃ、これ。」
 中尾が筒状に丸めたポスターを、秀に手渡した。そして、秀が抱えていたエレキをじっと見て、
「僕にもちょっと弾かしてくれる?」
と言った。秀は嫌だな、と思いながらも、外交的に笑顔を作って、エレキを中尾に渡した。

 中尾は「ふうん・・・。」とつぶやきながら、黒いジャパン・モズライトを、しげしげと眺め回したあと、おもむろにグランド・ファンク・レイルロードの「ハート・ブレイカー」のイントロを弾きだした。
 秀にはあまり心得のない、コード・カッティングとアルペジオが組み合わさったフレーズだ。正直言って、なかなかしっかりした弾き方だ。
 中尾は、次にビートルズの「ゲット・バック」を、さらにはローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」をニコリともせずに弾いた。
 ほんのさわりの部分だけだったが、この手の曲をコピーした事がない秀は、かなりコンプレックスを感じた。
(人が練習しているところへ、いきなりズカズカと入ってきて、これ見よがしに矢継ぎ早に弾きまくりやがって。)
 秀は、かなり気分を悪くした。
「ありがとう、いいギターだね。」
 そっけない口調でギターを返す中尾に対し、
「こういう奴とは、絶対に友達になりたくない。」
と思ったのだった。