12.衝撃再び(4)

 秀はエレキを弾くのと、犬の散歩で夏休みの大半を過ごした。犬は、父が1年前に、勤め先の近くに捨てられていた子犬を拾ってきた雑種であったが、パンダのように白地に目の周りだけが黒くて、家族全員でかわいがっていた。

 暑い夏が通り過ぎて行き、9月に入った。季節が流れて行くだけで、秀の日常には何の変化もない。
 相変わらず身の入らぬ授業が終ると、志垣とイトーヨーカ堂に寄り道したり、三田村がいるハンドボール部の部室に行って、多少背伸びをして、ビートルズやハード・ロックの話題に首を突っ込んだり、あるいは真直ぐ帰って家でエレキを弾く、といった生活を送っていた。

 そして、この月の明星が発売になり、例によって付録の歌本をパラパラとめくっていると、コンサート・スケジュールにベンチャーズの新しい公演日程が記載されている。
 そして、9月23日のところで秀の目が止まった。
 松戸市民会館。
 
 松戸といえば、柏の隣の市だ。電車でも、各駅停車で4〜5駅、快速なら1駅なのだ。
「そうかあ、ベンチャーズが松戸に来るのなら、コンサートに行ってみようかなあ。」
 そう思った秀だったが、その下に但し書きがしてある。
「民音公演のため、一般の方は入場できません。」
 秀はがっかりした。がっかりして、確かめもせずに、そこであきらめてしまった。後々に聞いた話では、一般客にも当日券を売りまくっていた、というのに。

 この頃まで、秀は高校生にしては、極めて行動範囲の狭い少年だった。柏に住むようになってから、お茶の水にエレキを買いに行ったのが、唯一の遠出だった。
 「一人で遠くへ行ってはいけませんよ。」と幼い頃に母親に言われた言葉を、そのまま守っているかのような、ちょっと情けない高校一年生である。

 信じられない事だが、この年の9月30日、ベンチャーズのコンサート・ツアー最終日の渋谷公会堂公演をも、秀は「そんな遠くまでは行けない」という理由であきらめてしまっている。

 9月23日の夜、
「今ごろベンチャーズは、すぐ隣の松戸でステージに立っているんだなあ・・・。」
 という時間を見計らって、部屋を暗くして、「ベンチャーズ・オン・ステージのすべて」を、A面の1曲目からかけ始める、奥手なエレキ少年であった。