9.衝撃再び(1)

 さて、7月に入り、1972年も本格的な夏になった。
 秀は中学3年の時から「月刊明星」を毎月購読していたが、それは付録の歌本が目当てであった。
 中学時代は歌謡曲が好きで、この歌本のコードを見ながら、石橋正次の「夜明けの停車場」や、井上順二の「昨日、今日、明日」あるいは尾崎紀世彦の「愛する人は一人」などを、弾き語りで口ずさんだりしていたものだ。
 もちろん、本体の方のグラビアや記事も楽しみではあった。小柳ルミ子や南 沙織の水着姿など、中学生の目には、かなり刺激的で、付録のポスターを自分の部屋の壁に飾ったりした。

       

 月刊明星と同じような内容で「月刊平凡」も出ていて、できれば両方買いたかったが、小遣いの都合もあって、明星だけで我慢していた。
 ここ最近、再びベンチャーズに傾倒し始めてから、歌謡曲に対する興味は急速に失せていたが、小柳、南の他にも、鮎川いずみとか、岩崎宏美など、秀の心を揺さぶるアイドルが目白押しだったせいもあって、毎月発売日になると、ついつい習慣で買ってしまうのだった。

 その付録の歌本の中に「コンサート・ガイド」のコーナーがあり、国内、国外のアーチストのツアーの日程が載せられていた。
 秀は生のコンサートというものに足を運んだ事がなかったが、毎月このコーナーは、なんとなく目を通すのが常であった。
 いつものように、新曲の楽譜やコード付きの歌詞をチェックしたあと、コンサート・ガイドの海外アーチストの欄を追っていくうちに、秀の視線がピタッと止まった。
「ザ・ベンチャーズ
 ○月○日 ○○市民会館
 ×月×日 ××県民ホール
              ・・・・・」
という具合に、ベンチャーズの公演日程の一部が記されている。
「へえ、ベンチャーズってまだ日本に来てるんだ。で、何々、なんだって?」
 添え書きの部分に、秀の人生を決定的に変える事実が書かれていたのだ。
「ノーキー・エドワーズの4年ぶりの復帰により云々・・・」
 秀は同じ個所を何度も何度も読み返していた。

 なんと、何年も前にベンチャーズを脱退したはずの、あのノーキー・エドワーズが、今年から復帰したらしい。
「胸さわぎ」というのは、こういう時の精神状態のことを言うのだろうと、秀は思った。

             


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