8.始動の時(5)

 技術系の友人、志垣が作ってくれた「ラジオ・アンプ」のお陰で、秀のエレキ・ギター・ライフは順調なスタートを切った。
 家で弾いているだけでは物足りなくなって、高校へもアンプを持っていき、普段は人の出入りの少ない生徒会室で、昼休みにエレキを弾いて過ごしたりした。
 まだまだ「ギター人口」が少なかった頃なので、エレキを弾く、というだけで、ものめずらしそうに見物に来るクラスメートもいたりした。
 
 その一人に、ブラスバンド部でサックスを吹いている中田源治という、スポーツ刈りの男がいた。
 ある日、その中田源治が話しかけてきた。
「君、ベンチャーズが好きなんだね。ベンチャーズっていいよね。小学校の頃、よく聴いたよ。」
 秀はうれしくなって、顔が崩れた。
「そうなんだ。源ちゃんは、ギター弾かないの? バンド組もうよ。」
「ああ、いいねえ。でも、俺、ギターも弾くけど、やるんだったらドラムがいいなあ。メル・テイラーの音って、最高だよね。」
 実際には中田は、ブラスバンドが忙しくて、秀とバンドを組んで活動できる状況ではなかったが、秀としては「ベンチャーズを好きな仲間」がいた、というだけでうれしかった。秀は「ベンチャーズ・オン・ステージのすべて」を中田に貸した。

 それにしても、一人でエレキを弾いているのは、どうにも寂しい。どうにかして、メンバーを集めたいものだ、と思うのだが、そう簡単に行くものではない。
 手っ取り早いのは、軽音楽クラブに所属することだ。しかし、何度か軽音楽クラブのコンサートを見た限りでは、ハード・ロックか、日本のフォークをやる人間しかいないようだった。
 今時「ベンチャーズやりたいんですけど」と言うのが恥ずかしくて、入部手続きまでには到っていない。

 クラスの三田村 孝史にも誘いをかけてみた。ストーンズの好きな三田村のことを考慮し、
「ストーンズとベンチャーズをやるバンドを作らないか?」
と言うと、
「パイプラインとジャンピング・ジャック・フラッシュを一緒にやるのは変だよ」
とあっさり断られてしまった。

 結局、秀のバンド結成は、暗礁に乗り上げた形となった。仕方なく一人黒いエレキをかき鳴らす、寂しい日々がしばらく続くことになる。

             


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