第5章 白雲編

         33.流れ行く雲(2)

 卒業式を4〜5日ほど後に控えたある日の夜、級友の阿武滝英雄が電話をかけてきた。
 阿武滝はハンドボール部員で、普段は秀とことさらに親交が深いわけではなかったので、秀は戸惑った。
「おや、阿武ちゃんが電話くれるなんて、珍しいじゃない。何かあったの?」
「うん、さっき細川から電話があって、虹ちゃん、中尾、細川と俺の四人でバンドを組んで、お別れ会で演奏しないかって言うんだよ。」
「ほう!」
 秀と丈の所属する3年G組では、卒業式終了後、担任の小久保先生を交えたお別れ会を催す事になっていた。
 細川は、その中のアトラクションとして、有志メンバーによるバンド演奏をしようというのだ。
 阿武滝の説明によれば、細川の提案というのは、
「ぜっかくクラスの中に楽器ができる奴が揃ってるんだからさあ、お別れ会で何かやろうよ。」
という物らしい。
 阿武滝は部活こそハンドボール部だったが、趣味でギターやベースを弾いている、という話を聞いたことがあった。
 また、細川雄三は軽音楽部員で、ドラムを担当していた。
 なかなか面白そうなアイデアだったので、秀もすぐに、
「いいね、やろうよ。」
と賛成した。丈には細川が電話で連絡している、との事だった。
「虹ちゃんがギターで、中尾がドラム、俺はベースを弾くから。」
 阿武滝の説明に、秀は首をかしげた。
「あれ、細川もドラマーじゃないか。」
「あいつはハンド・マイクでヴォーカルをやるんだって。」
「ああ、なるほどね。」
 細川は男前でスタイルもよかったので、センター・ヴォーカルとしてステージに立っても、かなりサマになるだろうと、秀は思った。

 細川の提案に全員が快諾し、翌日の放課後に当日のレパートリーを決める事になった。
 5〜6曲演奏しようという事になり、ほとんどはヴォーカルの細川の好みの選曲となりそうだった。
 当時軽音楽部員の間で、かなり人気のあった浅川マキの「ガソリン・アレイ」という曲。ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」、なぜかクール・ファイブの「そして神戸」
 そんな曲がピックアップされた後、細川が秀と丈に気を使って、
「せっかくだから、何か1曲ベンチャーズもやろうよ。」
と言ってくれた。
 秀は細川と阿武滝の音楽的趣向を考えて、
「ステッペン・ウルフのワイルドで行こうをベンチャーズがインストでやってるんだけど、それはどうかな?」
と提案した。丈がニヤリと笑い、他の二人も「いいね、いいね。」と賛成した。さらに細川は、
「そういえばベンチャーズって、朝日のあたる家やってたよね。浅川マキのバージョンだったら、俺歌えるんだけど。」
と言う。秀は、
「循環コードの曲だから、キーが変わっても大丈夫だろう。やろうよ。」
と答えた。丈も、
「問題ないね。」
と大きくうなずく。
 という訳で、すんなりとお別れ会のためのスペシャル・バンドのセットは決まり、翌日にはお互いにベンチャーズや浅川マキのレコードを持って来て、貸しあった。
 なかなかメンバー全員でリハーサルをやる余裕がなかったので、家で各々個人練習をしておき、ほとんどぶっつけ本番でお別れ会に臨む事になる。

 クラスの中では、秀や丈がバンド活動をしている事は知っていても、実際にプレイするのを見たことがない級友の方が大多数であろうから、卒業の記念にみんなの前で演奏できる事に、秀はとてもワクワクしていた。
 そして、ノーキーがベンチャーズ以外のバンドにセッションで参加するような気分に浸って、浅川マキのナンバーをコピーするのであった。


             


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