第5章 白雲編

         31.赤い記念碑(6)

 「キャラバン」を演奏し終えたT.A.D.の四人はステージを降りて、写真撮影、録音、照明を手伝ってくれた大林さんと神島さんに挨拶をした。
「ありがとうございました、いい記念になりました。」
 大林さんと神島さんは、四人とかわるがわる握手を交し、
「こちらこそ、生演奏を楽しませてもらっちゃって。」
「いやあ、なかなか本格的ですごかったですよ。」
と笑顔を返してくれた。
 その後すぐに、ステージ・セットを解体して片付けなければならないので、大林さんと神島さんには先に帰ってもらおうと思っていたのだが、
「せっかく来たんだ。手伝いますから、さっさと終わらせて一緒に飯でも食いましょうよ。」
「そうそう。力には自信があるから、重い物は任せて下さい。」
と、二人とも手伝ってくれるという。
 そこで、二人の好意に甘えて、六人で解体作業を行なったので、思いのほか早く片付いてしまった。

 昼食抜きで夕方まで過ごしたので、全員猛烈に腹が減っている。こういう時には、自然と「中華と定食の仲屋」に足が向く。
 各々好きなものを注文し、それができるのを待つ間も、そしてテーブルに運ばれてきて食べている間も、六人の若者たちは、ベンチャーズの話題を情熱的に語り合い、尽きる事がなかった。
 話の流れで、ノーキー派とジェリー派に分かれる事もあったが、決して険悪な雰囲気にはならなかった。あくまでも和やかに、ノーキーやジェリーの良さだけを主張しあう、ベンチャーズ・ファン同志の会話としては、実に理想的なものであった。
 大林さんと神島さんは今年から大学生になったが、T.A.D.の四人はまだ高校生で、しかも高校のすぐ近くの店なので、軽くビールでも、という訳にもいかない。
 それでも楽しい一時はあっという間に過去り、日も暮れて外は暗くなっていた。
 そろそろお開きにしましょう、という事になり、秀、丈、浩二、次郎は柏駅の改札まで、大林さんと神島さんを見送りに行った。
「今日は楽しかったです。受験頑張って下さい。」
「また演奏聴かせて下さいよ。」
「すっかり手伝わせちゃって、すみませんでした。落ち着いたら手紙書きます。」
そんな具合に二人の客人を送り出したが、T.A.D.の四人も今日はここで解散だ。
 秀は、ダイナミックスのコンサート・プログラムに載っていた、神西俊郎氏の'72年ツアー同行記で読んだ、ベンチャーズのツアー終了の場面を真似して、丈、浩二、次郎と握手を交しながら、
「今まで一緒に行動させてもらってありがとう、さようなら。」
と言ってふざけてみたが、実際バンドの活動は、ここで本当に一区切りだ。
 あながち冗談にもならず、秀は心の中で、妙にしんみりとした物を感じてしまった。
 明日からはメンバー全員、これまでの人生の中で、最大の試練とも言うべき受験に向かってまっしぐらだ。
 今日の記念撮影会の思い出を胸に、今度こそ受験が終わるまで、赤いテレキャスターを封印しようと、秀は思った。

             


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