第5章 白雲編

         30.赤い記念碑(5)

 この日、秀は白いズボンを着用してきた。
 青いズボンも捨てがたかったのだが、次郎が撮影した日比谷野音公演の写真を見ると、ノーキーは白っぽいズボンでステージに立っている。このイメージが強烈だったのだ。
 浩二は今年のツアーのドン・ウィルソンを真似て、ジーンズの上下で決めている。
 丈、次郎も各々お気に入りのシャツやズボンでステージ・セットに立った。
 6月のコンサートでは、秀は次郎が他校の友人から借りたアンプを使ったが、それはもう返してしまったので、今回は次郎自作スピーカーのOFFICE−B400を、ギター・アンプとして使う事にした。
 もともとヘッド自体はギター・アンプであるし、このアンプとスピーカーでテレキャスターを鳴らすと、実にまろやかで太い音が出た。ノーキーの音のイメージに近いものがあって、秀は一発で気に入ってしまったのだ。
 そのかわり、次郎用のベース・アンプは、軽音楽クラブ部長の小和田に頼んで借りた。YAMAHAの50Wほどの出力のアンプであるが、音量は十分だ。そのアンプにグレコのバイオリン・ベースを接続した。
 浩二は秀のエーストーン35Wと自分のエーストーン20Wを並列につなぎ、さらにその横に丈の持ち物であるエーストーン20Wを飾りで並べた。ギターはもちろんグレコのSG-350Tだ。鉛色のトレモロ・アームが渋く光っている。
 丈が収まっているドラム・セットは、今日はワン・バスドラムだった。ツイン・バスを置くスペースを確保できなかったのが、残念である。
 しかし、段違いになったステージ・セットが、その不満を補っていた。
 秀が左右を見ると、他の三人の頭の位置が全部違って見えて、感動した。

「そろそろ始めようか。」
 秀は大林さんにテープ・レコーダーのスイッチを入れるように合図すると、テレキャスターでおもむろに「プロローグ’74」を弾き始めた。オルガンがいないので、自分で弾くことにしたのだ。
 Cmのメロディー・ラインに低音を入れ、もったいつけたように、ゆっくりゆっくりと弾く。
 プロローグが終止して、音が消えるか消えないかのタイミングで、丈が力強くスネアを四発叩いた。
「ワイルドで行こう」だ。6月のコンサートではレスポールを使って、'71年のジェリー・マギー・スタイルで弾いたが、赤いテレキャスターでこの曲をノーキーのように弾くのは、やはり感無量であった。
 ステージ向かって左端で、ほとんどの曲をジョー・バリルのスタイルで叩く丈の姿。
 その右側でアーム付きSGを斜めに構えて、歯切れよくカッティングする浩二の姿。
 そして秀をはさんで右端でバイオリン・ベースの低音を響かせる次郎の姿を、秀は一生忘れる事ができないだろう。

 T.A.D.の四人は、写真撮影という名目ながら、ベンチャーズの’74年のツアーで取り上げられた曲を中心に、1部と2部に分けて、全27曲を演奏した。
 練習不足の割には、本番のコンサートでない気楽さからか、演奏の出来も思ったより悪くなかった。
「みんな、けっこう家ではギター弾いたりレコード聴いたりしちゃってるんだな・・・。」
と秀は思った。
 この日の演奏曲目は次の通りである。

第1部
 1.プロローグ〜ワイルドで行こう
 2.ラ・バンバ
 3.テルスター
 4.逃亡者
 5.涙のギター
 6.輝く星座
 7.京都の恋〜黒くぬれ
 8.さすらいのギター
 9.ウォーク・ドント・ラン・メドレー
10.星への旅路
11.スカイラブ
12.ハートに灯をつけて
13.ワイプ・アウト
第2部
 1.十番街の殺人
 2.ドライヴィング・ギター
 3.クラシカル・ガス
 4.ギミ・サム・ラヴィン
 5.ダイアモンド・ヘッド
 6.アパッチ
 7.朝日のあたる家
 8.ブルドッグ
 9.クルーエル・シー
10.夢のカリフォルニア
11.ハワイ・ファイヴ・オー
12.ファイアー
13.パイプライン
アンコール:キャラバン

 第1部での「さすらいのギター」と「ウォーク・ドント・ラン・メドレー」では、今年のベンチャーズに倣って、秀と次郎がポジションをチェンジした。
 ベンチャーズのノーキーとボブは、お互いのギターやベースを取り替えてそのまま弾いたが、次郎は自分のレスポールを持って来ていて、なんと「さすらいのギター」は'71年のジェリー・スタイルでプレイした。
 なかなかコピーも細やかで、元はジェリー・マギー・フォロワーのリード・ギタリストであった事を改めて認識させた。

 それと、余談ではあるが「ウォーク・ドント・ラン・メドレー」を演奏中に、照明器具の電源を取っていた延長コードが焼け溶けて切れてしまい、ブレーカーも落ちてしまったために、室内が停電状態となってしまった。
 これにはメンバー全員大騒ぎだ。
「うわ、松戸のベンチャーズと一緒だ!」
「ここまでコピーしてるバンドなんて、他にいないよな。」
 本来ならば「トラブル」というべきアクシデントが、偶然とは言いながら四人にとっては、、神様からのお茶目なプレゼントのように思えたのであった。


         


















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