第5章 白雲編

         27.赤い記念碑(2)

 自宅療養を終えた秀は、11月第三週の月曜日から登校を再開した。
 約一ヶ月半ぶりに教室に顔を見せた秀に、クラスメートたちが口々に、
「おお虹、もう大丈夫なのか?」
「手術大変だったな。」
などとお見舞いや激励の言葉をかけてくれた。
 教室での秀の席は、相変わらず丈ととなり合わせで、教壇の真ん前である。
 授業の科目が変わるたびに、その教科の担当教師が「おっ?」という顔をして秀を見たり、話しかけてきたりするのが、ちょっと照れくさかった。

 放課後、秀は丈、浩二、次郎を演劇部室に呼んだ。同じクラスで席がとなりの丈は、すでに散々会話を交しているので別として、浩二も次郎も、
「体は大丈夫か?」
「顔色は悪くなさそうだな。」
と、秀の顔を見て笑顔を見せた。
 病室以外で久々に四人で集まる雰囲気は、やはり格別のものがあった。
 多少の雑談をした後、秀は三人に向かって、数日前から考えていた計画を話し始めた。
「実は、みんなに提案というか、頼みがあるんだけど。」
 秀の妙な切り出し方に、三人ともいぶかしげな表情を見せる。
「なんだい、急に改まって。」
浩二が先をうながす。秀は下を向いて、ちょっと間をあけてから思い切って口を開いた。
「受験も迫っているこんな時期になんだ、と思うかもしれないけど。」
「うん?」
「T.A.D.の写真撮影をしたいんだよ。」
「写真撮影だって?」
 丈、浩二、次郎は顔を見合わせた。
「写真撮るだけなら、たいした手間じゃないだろう。」
次郎が首をかしげて言う。
「いや、ただ写真撮るだけじゃなくて、今年のベンチャーズのツアーみたいなセットを組んで、ステージ写真を撮りたいんだよ。」
「なんだって!」
 すでに秀の顔を見ていた三人ではあったが、さらに視線を集中して、秀の話に耳を傾けた。
「俺、どうしても赤いテレキャスターで、何か記念を残しておきたいんだよ。6月のコンサートではテレキャスターを使わなかったからね。」
 秀は三人の顔を代わる代わる見ながら、真剣な表情で話す。
「受験もみんなの状況によっては3月の卒業式ギリギリまで延びるだろうし、その後でコンサートをやるのは無理だもんな。だけど、記念撮影ならなんとかなると思って。」
 じっと腕組みをして聞いていた次郎が、首を横に振った。
「今、そんな事をしている場合じゃないだろう。やるなら、受験が終わった後にするべきだよ。」
「ハカセのいう事はもっともだと思う。でも俺、思い立ったらもうダメなんだ。みんなには迷惑かけないように、準備は俺一人でやるから。みんなは当日、顔を出してくれるだけでいいんだ。」
 すると丈が、
「そんな病み上がりの体で、ベンチャーズのステージみたいなセットをどうやって組むんだよ。」
と苦笑いする。
「まあ、なんとかなるよ。」
そう言い張る秀の肩を、丈は右手でポンポンと叩いた。
「わかった、わかった、俺もやるよ。どうせ1日24時間勉強している訳じゃないんだ。それに、本格的なステージ・セットを組んで写真を撮るってのは、すごく面白そうだし。」
「まあ、気晴らしにもちょうどいいかな。」
浩二も笑顔で乗ってきた。
 次郎は、最後まで腕組みを解かずにいたが、丈と浩二の意見を聞くと、
「よし、やろう。だが、一つだけ条件がある。」
と、人差し指を立てて、右手を真直ぐ突き出した。
「やるなら、期末試験が終った後だ。」
 これには秀も大きくうなずいた。
 かくして、T.A.D.の記念撮影会が、12月15日の日曜日に行なわれる事になったのである。


             


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