第5章 白雲編

         23.凍るテレキャスター(2)

 前回9月に入院した時は、左側の肺が破損していたのだが、今回は右側に衝撃を感じた。
 その夜のうちに秀は両親に、
「また肺が破れたみたいだ。」
と話し、翌朝父とともに飯田橋の逓信病院に赴き、診察を受けた。
 覚悟していた通り、レントゲン検査で右の肺がしぼんでいるのが明らかにわかり、その場で再入院が余儀なく決まってしまった。
 前回治療した左の肺は、手術を施している訳ではないので、自然気胸が再発する恐れが十分あった。
 さらに右の肺が破れてしまったので、今回は手術を避けられないだろう。両方の肺が同時に気胸を起こすと、呼吸困難に陥る危険があるのだ。

 その日の昼前には、秀は前月の入院で、勝手知ったる病院8階の呼吸器科の病室のベッドに、ポンプと胸を管で繋がれて横たわっていた。
 前回の入院で同室だった、まだ退院していない何人かのおじさん達に、
「あれ、虹沢君おかえり。」
「だめだよ、半月でこんなとこに戻ってきちゃ。」
などとからかわれて、苦笑いである。
 母なども手馴れたもので、父の連絡を電話で受けて、午後には入院に必要な衣類その他一式を持って、病室に現れた。
「荷物が多かったから、今日はテープレコーダーは持って来れなかったからね。明日まで我慢してちょうだい。」
と、しっかり釘をさされてしまったが、どのみち、入院初日はまだ息も苦しいし、ベンチャーズをイヤホーンで聴くどころの状態ではない。

 翌日の午前中、秀は院内回診で医師から、
「来週の月曜日に手術するからね。」
と伝えられた。
 高校三年になるまで、手術はおろか、入院すら経験のなかった少年には、まったく驚くべき出来事の連続であった。
 夕方には、さっそく丈がカセット・テープをお土産に飛んできてくれた。
「まいった。またやっちゃったよ。」
 苦笑いする秀に、丈もあきれた顔で、
「まったくどうなってんだよ。」
と笑いを返した。
 この日、母もテープレコダーと一緒に、カセット・テープを適当にみつくろって持って来てくれてはいたが、さすがにピントがはずれていたので、その穴を丈が見事に埋めてくれて、助かった。
 秀は午前中の回診の後、渋山ゆりへの手紙を書いておいた。それを丈に渡し、
「帰り際にポストに入れてくれないか。」
と頼んだ。
 女の子に宛てた手紙を母親に出してもらうのが、ちょっと照れくさかったからである。
 丈はニヤリと笑って、受け取った封筒をポケットに入れると、
「このやろう!」
と、秀の肩を叩いて、病室を出て行った。


             


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