第5章 白雲編

         12.サマー・ブリーズ(4)

 昼を過ぎたので、二人は一端プールから出て、事務所の2階にある食堂に入った。
 ラーメン、カレーライス、うどん等、簡単な食事ができるようになっている。
「何にする?」
「秀ちゃんと同じでいい。」
「じゃあ、ラーメンにしよう。」
 しっかりと割り勘で食券を買う。
 ちょうど空いていた窓際の席に腰掛け、秀がコーラ、ゆりがオレンジ・ジュースを飲みながら、ラーメンのできるのを待っていると、食堂に流れていたラジオから「ダイアモンド・ヘッド」が聴こえて来た。
「あら、ベンチャーズね。」
 ゆりが秀を見て笑った。秀もちょっとうれしそうにうなずいたが、一言付け加えずにはいられない。
「でも、ベンチャーズっていうと、なんでダイアモンド・ヘッドとかパイプラインしかかからないのかなあ。他にもいい曲がいっぱいあるのに。」
「でもこの曲が一番ベンチャーズって感じがするわ。」
「そうなんだろうなあ。コンサートでも、ダイアモンド・ヘッドとパイプライン、それからウォーク・ドント・ラン、十番街の殺人、キャラバンは必ずやるからね。」
 秀の言葉が熱気を帯びてくると、ゆりは「うふふ」と笑った。
「私なんか、それだけで知ってる曲全部って感じだわ。あ、でも家にお兄ちゃんが買ったベンチャーズのレコードが何枚かあったわ。」
 秀は小学生の時のクリスマス・パーティーで、ゆりが持ってきた4曲入りのクリスマスEP盤を思い出した。
「ああ、ゆりちゃんのお兄さんもベンチャーズ聴いてたもんね。他にどんなレコードがあるの?」
「そうねえ、夢のマリナー号って題名だったかしら。あれ、いい曲ね。」
「あ、それ俺も大好きだけど、最近のコンサートじゃやってくれないんだ。他には?」
「えーと、白鳥の湖のメロディーの曲があったけど、よくわからないわ。」
 秀はアルバム「JOY」を持っていなかったし、「白鳥の湖ロック」のシングルも聴いたことがなかった。
「へえ、俺はその曲知らないんだけど、ずいぶん新しいのまであるんじゃない。」
「でも、もうベンチャーズは聴かなくなっちゃったみたい。最近は、レッド・ツェッペリンとか、ディープ・パープルみたいなのばっかり聴いてるわ。」
「うちの兄貴なんか、ベンチャーズは半年で卒業しちゃったもんな。」
「その点、秀ちゃんは好きになったら一筋なのね。」
 そう言われて秀は、
「そうそう、女の子もゆりちゃん一筋。」
などと返そうとしたが、言葉が出てこなかった。肝心な時に秀の口には、ロックがかかってしまう。秀は心の中で、自分の頭をげんこつでガンガン殴っていた。

 昼食後、二人は再びプールに戻り、水の中で遊んだり、プールサイドに寝そべって会話したりしながら時を過ごした。
 しかし、二人っきりなので、午後2時半ぐらいになると、さすがにする事がなくなってしまい、プールを出ることにした。
「せっかくこっちまで来たんだから、また大島のあたりを歩きたいわ。」
「よし、そうしよう。」
 という事になって、着替えを済ますと、バスに乗って亀戸方面に向かった。

             


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