43.地平線の彼方に(10)

 コンサートの第一部も佳境を迎え、これもステージでは初めての「ハートに灯をつけて」を演奏する。
 イントロのオルガンのフレーズをギターで代用して弾くには、かなり速弾きすぎて秀には無理だったので、少々間が抜けてはいるが、ジェリーのコード・カッティングをそのままプレイするにとどめた。
 テーマ部分に入り、しっかりとコピーされた次郎のベース・ラインが、秀のリード・ギターの大きめのフレーズの間を縫って歌っている。
 浩二のカッティングは、本物のドン・ウィルソンよりずいぶんジャズっぽいサウンドだ。これは多分にオルガン・ソロの際の、ジェリー・マギーのバッキング・パターンを意識したものであると思われる。いくらかネック側でピッキングして、そういうフィーリングのサウンドを出すのは、浩二の「遊び心」であったが、音質が丸くて太い分、オルガンの音圧をもカバーする結果となり、バンド全体の音に厚みを増していた。

        

 丈のドラムは、言うまでもなく安定している。
 そのバックに乗って、秀はのびやかにテーマ部分を弾き終えると、やがてソロにさしかかる。
 オルガンがいないので、前半部を'70年、後半部を'71年のコピーでプレイする。
 秀は後半のソロを弾きながら、’71年のジェリーのフレーズは、何とメロディアスで、よくできてるんだろう、と思った。「アドリブ」を感じさせない「旋律」が、そこにはあった。
 ソロの終盤「クラシカル・ガス」と同様に特訓した、スリー・フィンガーのミュート・ピッキングを右手で高速に回転させつつ、左手はフレット・ボード上を、徐々に徐々に高音部へ這い上がってゆく。
 次第に右手のミュートを緩めると、そこから一気にハイ・ポジションにスライドしていき、最後のアドリブを炸裂させる。
 ソロの間、静かに抑えていた丈のドラム、次郎のベース、浩二のカッティングが、秀のリードを煽るかのように、うねっている。
 エンディングのオクターブ奏法もビシッと決まり、これが本物のベンチャーズのコンサートだったら、拍手、口笛、大歓声といったところだろう。
 実際はそれほどでもなく、他の曲とほぼ均等で冷静な拍手の中、司会の原田が登場した。
「・・・・・5曲続けてお送りいたしました。次は、第1部のラスト・ナンバになります。ドラムの中尾 丈をフィーチャーしてお送りしましょう、ワイプ・アウト!」



 丈がタムタムを16分音符で連打し、秀と浩二と次郎がユニゾンでテーマを弾く。ほどなく1回目のドラム・ソロに入る。
 ブラス・バンドにおける、豊富な基礎練習に裏打ちされた正確で力強い丈の連打は、凄い迫力だ。
 丈はこの日のために、使わなくなった古いスネアの裏皮をはずした、ティンバレスのような形状の、特製タムをセットしていた。ジョー・バリルのスモール・タムの雰囲気を出そうと、苦心の末に改造したものだが、目をつぶって聴けば、本当にエイト・ブラザースを叩いているようだった。
 秀は完全コピーにこそ到らなかったが、基本的には'72年のノーキーのソロをモチーフにして、合計3回のソロを組み立てた。
 T.A.D.に参加したての頃は、テーマのメロディーを繰り返すだけだった二郎も、すっかりボブ・ボーグルのフレーズを物にしている。
 浩二はもう、余裕の笑顔だ。
 最終コーラスに入り「オン・ステージ’73」のジョー・バリル風の、丈の嵐の連打の後を受けた秀は、ノーキーの'72年「ダブル・ノート・スライド奏法」でアドリブをしめくくった。
 四人の息もピッタリでエンディングを決めると、タイミングを合わせてお辞儀をして、楽屋に引き下がる。
 ここはさすがに、ほかの曲よりも、客席の拍手が盛大だったようだ。
 ステージでは、第2部のオープニングまで5分間の休憩をとる旨を告げた原田が、
「なお、場内は消防法により、禁煙となっておりますので、おタバコのほうはご遠慮ください。」
などと言って、客席から冷ややかな笑いを受けていた。


             


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