42.地平線の彼方に(9)

 オープニングの3曲を演奏し終わった時点で「オン・ステージ’71」の進行にならって、司会の原田が登場した。
 ラジカセから付属のワイヤレス・マイクで音を飛ばすという、あまりにもお粗末な「PAシステム」なので、ほとんど何を言っているのかわからない、割れた音声が場内にかすかに響いた。
「本日はジ・アドベンチャリー・ダイナミックスのコンサートにお越しいただきまして、ありがとうございます-----」
から始まって、宇月 陽介、アレキサンダー1世、河野 嘉之のエッセンスを取り入れつつ、原田独自のアレンジをほどこした挨拶がぼくとつと流れたあと、メンバー紹介となった。
 一人一人が紹介される毎に、他の三人は「オン・ステージ’71」のメンバー紹介で聴かれる「競馬のファンファーレ」や「ジャズ風の雨の御堂筋もどき」のフレーズを弾いて盛り上げる。
 メンバー全員が紹介され、原田が、
「もう一度拍手をお送りください、This is The Adventurely Dynamics !」
と左手を真直ぐ四人に向けて差し出すと、T.A.D.は受験生らしく「大学祝典序曲」をテーマ曲として演奏した。
 これは「大学受験ラジオ講座」のテーマ曲で、この頃の大学受験生なら誰でも知っているはずだということで、客席の受けを狙ったものである。

 さて、オープニング3曲をジェリー・マギー時代からの選曲で固めたT.A.D.であったが、今度は一転して、ノーキー在籍時のアレンジから4曲続けた。
 まずは「アイム・ア・マン」
 本物のベンチャーズとは若干アレンジを変え、ドラム・ソロのバックでワウワウを使ったカッティングは、浩二が弾いた。ローランドのワウ・ファズは、実にエフェクトの効き具合が素晴らしかった。また、浩二のワウの使い方が「シカゴのテリー・カス」と「ボブ・スポールディング」を足して2で割ったようなセンスで、なかなかのものだった。
 必然的に、この間秀はタンバリンを叩く。次郎もカウベルを「コンコン」とスティックで打ち鳴らす。
 
          

 三人の「パーカッション」を従えて、丈のドラム・ソロが火を吹いた。
 去年の文化祭よりも、一回りも二回りもパワー・アップしたソロは、客席の目を釘付けにし、圧倒した。
 エンディング前のツイン・バスもバッチリ決まり、ブラス・バンドの後輩達の前で、面目をほどこしたのであった。
 続いて浩二が5、6弦の5フレット付近をスライドさせてカッティングを始める。「ブルドッグ」だ。
 秀は当初「オン・ステージ’72」のノーキーがワウワウを使ったバージョンをプレイしたかったのだが、さすがに難易度が高すぎて、コピーできなかった。
 不本意ながらもワウを使わずに、'65年と'72年をミックスした無難なソロでまとめた。本番で冒険はできないものなのだ。
 そして「朝日のあたる家」では、1回目のソロを'65年風、2回目を'70年風、3回目を’72年風に弾いた。
 この辺になると、メンバー全員かなりほぐれてきて、余裕の微笑すら浮かんでいる。
 
 しかし、次の「スカイラブ」は、レパートリーにして間もない曲だったので、途端に全員の表情が引き締まった。
「フェイザー」「コーラス」系のアタッチメントを手に入れる余裕のなかった秀は、パールのアンプに内臓された「トレモロ」のスイッチを入れて弾く。まるで'65年の「テルスター」のような雰囲気だが、仕方がない。
 横で浩二が力強く「チャカチャカチャカチャカ」とカッティングしている。
 リード・ギターの、サビ部分の16分音符のフレーズは、実際に弾くと意外に指使いがむずかしく、練習の段階で秀はしばしばミスしていたが、本番では日頃の鍛錬の甲斐あって、つかえることなく通過できた。
 エンディングでは、マイクなしだが、全員で「アーアーアー・・・・・」とコーラスを入れた。しかし後で録音を聴くと、かなり音程が狂っていて、なんとも恥ずかしいものであった。


             


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