41.地平線の彼方に(8)

 さて、緊張のわりには、まあまあの出来でオープニング・ナンバーを乗り切ると、秀はゆったりと「輝く星座」のイントロを弾き始めた。
 メンバー全員「オン・ステージ’71」のテイクをコピーしたので、あのイントロが入らないと気分が出ないという事で、オルガンのフレーズをギターでアレンジして弾くことにしたのだ。
 イントロ後半から丈、浩二、次郎が加わってきて、ミステリアスでエキゾチックな「アクエリアス」のテーマ部分に入った。
 秀は心持ちネック側でピッキングし、音質を柔らかくする。ピックアップを切り替えてもよかったのだが、秀はフロント・ピック・アップでプレイするのが苦手だった。
 基本的にリア・ピック・アップしか使わないノーキーの影響が、こんな所にも現れたのかもしれない。
 サビ部分を過ぎ、リズムが変わる。「レット・ザ・サンシャイン・イン」だ。ここ一ヵ月ほどで、ようやくコピーした「オン・ステージ’71」バージョンのソロを、秀は気を入れて弾いた。
 丈、浩二、次郎のバッキングも、秀を煽るようにうねっている。秀はいい感じでこの曲も演奏できたと思った。

 さて、
「ワイルドで行こう」
「輝く星座」
とくれば、'70年代のベンチャーズ・ファンならば、次に何が出るかおわかりであろう。
 秀がローポジションの「Am」を押さえた。難曲「クラシカル・ガス」だ。
 5弦から始まるアルペジオを弾き流す。
 同じフレーズがもう一度繰り返されるが、「難曲」という意識で秀は指が動かない。'71年というよりは、'73年ダイナミックスのテイクのように、たっぷりと間があいた後、どうにかイントロを弾き終えた。

        

 テーマの部分に入ると同時に、寸分狂わぬタイミングで、丈がハイハットで加わってくる。このあたりは、一年以上同じバンドでプレイしている者同士の、阿吽の呼吸だ。
 一年前には、この名曲をステージでプレイできるとは、思ってもいなかった。
 そしてなにより、オープニング3曲を「オン・ステージ’71」の順番でできるのが、とにかくうれしかった。
 長い事ベンチャーズのコピー・バンドをやっていると「この曲の次はあの曲」といった「セット感覚」が自然に発生してくるものだ。
「ワイルドで行こう」
「輝く星座」
「クラシカル・ガス」
は、どうしても3曲続けて、しかもオープニングに演奏しなければいけないセットなのである。

 さて、難曲に挑んだ秀であったが、額や手のひらにびっしょりと汗をかきながら左右を見ると、丈、浩二、次郎の三人は、もうすっかり落ち着いているようであった。特に次郎はサビの部分を、ダイナミックスのビル・リンカーンのフレーズで弾いてみせる余裕を見せた。
 秀も、完璧とは言えないまでも、なんとか無難に、序盤最大の難関を切り抜けたのであった。


             


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