40.地平線の彼方に(7)

 場内は照明が消され、暗幕の隙間からわずかに洩れる日の光と、入り口上の非常口ランプの明かりで、ステージも客席も、うすぼんやりとしている。
 秀と浩二のアンプの間の壁に、今日はスペア・ギターの地位に甘んじた赤いテレキャスターが、淋しそうに立てかけられていた。
 次郎、秀、浩二はアンプにシールドをさし終わり、丈もドラム・セットの中央でバスドラムとハイ・ハットのペダルを踏んで、スタンバイしている。
 二郎が、ステージ向かって下手に控えている原田に、コンサート開始の合図をした。
 丈が家から持ってきたカセット・テレコに繋いだマイクで、原田がオープニングのMCを叫んだ。

”Ladies and Gentlemen, Now we will present you,

   The Adventurly Dynamics! "

 遠慮がちの場内の拍手の中、丈のカウントが入り、ステージが照明で明るくなると同時に「ベンチャーズ・オン・ステージ’71」と同じ、オープニング・ナンバーの「ワイルドで行こう」のイントロが鳴り響いた。



 秀の耳には、ベースもドラムもリズム・ギターも、ベンチャーズのボブとメルとドンがプレイしているのと一緒に聴こえた。
 次郎のベースが、自作スピーカー・ボックスからいい音色で低音を響かせている。
 秀は自分がジェリー・マギーになった気分で、サムピックを使ってメロディーを奏でた。
 イエロー・サンバーストのレスポールではあったが、それが秀の頭の中では、金色に輝いているのだった。
 ジョン・ダリル役のオルガンがいないのをサポートして、サビ部分の直前に、浩二がファズのスイッチを入れて、Eの低音を弾きのばす。
 気分が一気に盛り上がり、秀は身体をちょっと傾けて、ネックのハイ・ポジションを押さえ、サビのメロディーをのびやかに弾き上げる。

 秀は弾きながら、
「ワイルドで行こうって、ほんとにいい曲だなあ。」
と、改めて思った。
 コード進行やメロディーはもちろんの事だが、コンサートのオープニングとしては、演奏する立場からすると、とてもリラックスして弾けるタイプの曲だ。
 実は、オープニング・ナンバーに関しては「ワイルドで行こう」にするか「クルーエル・シー」にするかで、メンバー全員おおいに悩んだものだ。
 結局「ワイルドで行こう」に落ち着いたのは、この日の秀の使用ギターがレスポールだったからであった。
 赤いテレキャスターを使うのであれば、当然オープニングは「クルーエル・シー」になっていたであろう。


             


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