31.気流に乗って(3)

 ほどなく浩二が、十一屋という酒屋で買ったジュースやコーラを手土産にやってきた。
 今日は丈のおかあさんの目が光っているので、缶ビールで乾杯という訳にはいかない。
 丈のおかあさんは、浩二が到着するまでに、手早く準備をしてくれていた。
 三人はさっそく、好みの具を好きなだけ選んで入れたもんじゃ焼きを、ジュージュー焼きながら「ベンチャーズ・イン・トーキョー」を聴き始めた。

     

 ステレオ・セットに接続されたテープ・デッキには、しっかりダビング用のカセット・テープがセットされている。
 三人はかわるがわるレコード・ジャケットを回して眺めながら、'68年のベンチャーズのサウンドを楽しんだ。
 秀は、オープニングの「レッツ・ゴー」のジェリーのプレイに注目していたが、予想通り、なんとも奇妙な味わいのアドリブであった。
「ジェリーのギターって、クセがありすぎて、真似しづらいんだよなあ。」
 秀は溜息をついた。
「この年のモズライトはセミアコか。ちょっと音がこもり気味で、ジャズっぽい感じだね。」
 音質に鋭い浩二が、もんじゃ焼きを鉄板から直にヘラで口へ運びながら言った。
 秀とは違い、普段からあらゆるジャンルの音楽に耳を傾けていた浩二は、ジャズも好きで、モズライト・コンボ・モデルの独特なサウンドが気に入ったようである。
「ジェリーはまだ、一生懸命ノーキーっぽく弾こうとしているみたいだ。」
 秀は音質よりフレーズにこだわる。
「メルのドラムは、今とそんなに変わらないな。」
 もちろん丈はメルのドラムに耳が行く。

     

「ビリー・ジョーの唄」のサンディー・リーのヴォーカルには、
「うわあ、なんだか色っぽいなあ。」
 と三人揃ってのけぞったし、テノール歌手のような唄法の、ドンの「野生のエルザ」にもびっくりした。
 全体を通して、'70年や'71年、あるいはダイナミックスに比べると、ジェリーがまだ「それまでのベンチャーズのイメージとスタイル」を律儀に守ろうとして、プレイがいくらか窮屈な印象を受けた。
 もちろん、フレーズの端々に只者ではない何かを感じさせていて、ノーキーとは違った魅力をかもしだしてもいるのだが。
 いずれにせよ、ジェリーとモズライトのカップリングはこの年だけなので、貴重といえば貴重な音源である。

「うわあ、パイプラインのクロマチック・ランがすごい迫力だね。」
「テケテケというよりは、ジャカジャカだな。」
「ジェリーがサム・ピックで弾いてるのかな。」
「うわあ、ウォーク・ドント・ランでサンディーはオルガン弾かないで、タンバリン叩いてるよ。」
「きっと参加したばっかりで、コード覚えてないんだよ。」
「そんな事はないだろう。」

 もんじゃ焼きのジュージュー焼ける音と、'68年のベンチャーズの演奏が交錯する中、三人は思い思いの事をしゃべり、そして食べまくったのであった。


             


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