28.雲の上で(6)

 高校から歩いて行ける距離にある次郎の家には、何かと立ち寄る事の多い秀と丈、浩二であったので、次郎のおかあさんともすっかり顔なじみになり、三人が顔を出すと、いつも笑顔で迎えてくれた。
 次郎の部屋で各々自分の位置を確保してくつろいでいると、おかあさんが紅茶とお菓子を持って入って来た。
「いらっしゃい。皆さん、いつもお元気でいいわね。」
 秀も丈も浩二も、この上品な言葉使いのおかあさんが大好きであった。
「いつもお邪魔してすみません。」
「どうぞおかまいなく。」
 秀たちの拙い挨拶にも、次郎のおかあさんは笑顔で、
「どうぞごゆっくり」
 と答えて部屋を出て行った。
 紅茶を飲み、お菓子をつまみながら、さっそく単独コンサートについての話し合いを再開する。

「まず、いつやるかだ。」
 浩二が切り出した。
「受験もあるし、そうそうのんびりしてはいられないからな。」
と、ハカセの異名をとる次郎。
「でも、人前でやるからには、もう少し練習しておきたいしね。」
 と、丈はいくらか慎重な構えだ。
 そこで秀は、次郎の部屋の壁に貼られた12ヶ月すべてが入っているポスター大のカレンダーを眺めながら、
「だいたい2ヶ月準備期間を置くことにして、6月半ばぐらいはどうかな。」
 と提案した。
 メンバー全員の視線が、壁のカレンダーの6月に集中した。
「いいんじゃないか。15日の土曜日なんて、一番よさそうだ。」
 浩二が言うと、丈と次郎も、
「うん、ちょうどいいところだね。」
「文句無しだな。」
 と同意する。
 そして次郎は立ち上がって、赤いサインペンで6月15日の「15」の数字を丸で囲い、その下に「T.A.D.コンサート」と小さくメモを入れた。
 自然とこの場の進行役になっている浩二が、話を先に進めた。
「で、場所はどうする?」
 次郎が、
「文化祭じゃないから、体育館とか講堂は無理だろうな。」
 と受けると丈は、
「視聴覚教室か、音楽室あたりかな。」
 と提案する。そこで秀は、
「音楽室は、教室の一番前がステージになっているから、雰囲気抜群だ。音楽室がいいよ。」
 と、一気に結論を出した。
「できる」「できない」
「やりたい」「やりたくない」
 ではなくて「やる」方向で意見が一致しているときには、話の進みも早いものだ。
「早めに使用許可をもらっておいた方が間違いがないだろうから、新学期に入ったら、すぐに申請しておくよ。」
 秀が言うと、丈、浩二、次郎は大きくうなずいた。
 この瞬間から、四人にとって1974年6月15日(土)という日付は、特別な日となったのであった。


             


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