27.雲の上で(5)

 2、3日すると、丈が自宅でマスター・テープから、メンバーの人数分をダビングして持ってきた。
 グループ結成以来、こんなに気合が入ったのは、文化祭以来だ。それほど苦労して録音した、今回のスタジオ盤「T.A.D.1周年記念アルバム」であったが、演奏の出来に関して、秀はまったく満足ができなかった。
 録音の際の、極度の緊張もかなりの原因ではあるが、それ以前に、客観的に聴いて、どうもコピーの間違いが目立つようだ。
 次郎が参加して、ベースがボブの雰囲気になり、バンド全体の音が、かなりベンチャーズらしさを増したため、自分自身のプレイも、もっと本物に近づきたいという欲が出てくる。
 同じ型や色のギターを使ったり、同じ色のズボンをはいたりするだけでは、音には全然反映されない事を、改めて痛感させられた、スタジオ録音盤制作であった。

 四人は四月になれば、三年生に進級し、大学受験生となる。二年生だから遊んでいていい、というものでもないが、バンド活動を思う存分できるのも今のうちだ、という意識から、メンバー全員、暇さえあれば集まって音を出した。
 全員揃わなくても、四人のうち二人が来れば「ジャンツカ」やった。

 春休みも間近い三月半ばの日曜日、いつものようにブラスバンド部室でひとしきり練習した後、T.A.D.のメンバー四人は、これまたいつものように、行きつけの店の中から、この日は中華と定食の仲屋を選んで飯を食いながら談笑した。
「ハカセが入ってから二ヶ月たったけど、かなり形が出来てきたな。」
 浩二が焼肉定食をかき込みながら言った。秀も上海焼きそばをほおばりながらうなずく。
「やっぱり、ハカセがボブのフレーズをちゃんとコピーしてるから、それだけでバッチリ雰囲気出ちゃうよね。」
 それを受けて、次郎はタンメンのスープをすすりながら、ニヤリと笑う。
「最近、やっと4本弦に慣れてきたよ。」
 気のせいか、笑顔の感じまでボブ・ボーグルに似てきたようである。T.A.D.加入以前は、レスポールを持ったところを斜め後ろから見れば、ジェリー・マギーにそっくりだったというのに。
 すると、チキンライスをつついていた丈が、
「でもさあ、せっかくいいメンバーが揃ったんだから、またコンサートやりたいよな。」
と言い出した。
「コンサートかあ。いいねえ。」
 浩二もうなずく。次郎は、
「俺は正式メンバーになってから、まだステージに立った事がないから、コンサートは絶対やっておきたい。」
 と、意欲満々だ。
「よし、やろうぜ。」
 お冷を飲み干した秀が言った。
「いつやるんだ?」
 食べるのは早いが、冷静な浩二が、楊枝で歯をつつきながら聞く。秀は天井を見上げながらつぶやく。
「もう軽音のコンサートには出られないしなあ・・・。」
 実際、砂田隆彦と最後のステージに立った冬休み前のコンサート以来、秀は軽音楽クラブには、まったく出入りしていなかったし、部費も納めていなかった。
 正式な退部届は出していなかったが、ここまで部活動に対して非協力的では、今さらコンサートの時だけ、のこのこと顔を出す訳にはいかない。
「いいじゃないか、単独コンサートで行こうよ。」
 チキンライスを食べ終わった丈が、事もなげに言った。浩二もすぐにうなずいた。
「準備は大変だけど、余計な気を使わないで済むし。」
 すると、とっくにタンメンのスープまで全部飲み終えていた次郎も、
「そうだよ。本物のベンチャーズ並みの曲数ができるぞ。」
 と、たたみかける。これには、秀も異論はなかった。去年の文化祭で、出番の制限時間を気にせず、思う存分演奏できる単独コンサートの魅力は、十分わかっている。
「よし、やろうか。でも、去年の文化祭の時以上に、じっくり準備した方がよさそうだね。」
 食事が終わっても話が終わらないので、四人は次郎の家に行って、じっくり話し合うことにした。


             


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