24.雲の上で(2)

 2月最後の日曜日になった。
 朝10時にブラスバンド練習室に集まったT.A.D.のメンバー四人は、スタジオ録音アルバムのテープを制作するための準備にとりかかった。
 演奏中、お互いが顔を見合わせて、アイ・コンタクトを取りやすい位置に、各々のアンプをセットする。
 この当時は、ステレオ・テープ・デッキや多重チャンネルのミキサーは非常に高価で、誰もが持てる代物ではなかった。高校生のバンドとしては、借り物とはいえ、かなりぜいたくな機材を揃えた「レコーディング」ではあったが、パンチ・イン、パンチ・アウトの機能まではついておらず、デッキも2チャンネル入力なので、演奏自体は「せーの」の一発録りをせざるをえない。
 したがって、演奏中のメンバー間のコミュニケーションが十分取れるように、立ち位置を決めなければならないのだ。
 アンプの位置が決まったら、マイク・スタンドをセットする。
 宮田君や、小田さんに借りたマイクは全部で5本。ギター、ベースに各々1本ずつ使い、ドラムには2本使う。ミキサーは8チャンネルだったので、できればドラムに4〜5本使いたいところだが、そんな本数のマイクを用意するのは不可能であった。バス・ドラムの前と、丈の頭上の少し手前にセットした。
 この日、宮田君はエンジニアとして参加したがっていたが、あいにく用事が重なり、来る事ができなかった。
 T.A.D.のセルフ・プロデュース、セルフ・エンジニアリング、という訳である。

 一通りセッティングが終わると、試し録りをする事にした。
 本番には、奮発して買ったTDKの高いテープを使うが、試し録りには、長崎屋という小さなデパートの「サンバード」という安いブランドのテープを使った。
 一曲目に収録予定の「クルーエル・シー」を、丈のカウントとともに演奏する。
 次郎の「ボブ・フレーズ」が耳に心地よい。
 演奏が終わると、テープを止めて巻き戻し、皆でヘッドホンを順番に耳に当てて、今録った音を聴いた。
 ミキサーやマイクなど、初めて使う機材だらけの割には、まあまあの出来だ。
「虹、もうちょっとマイクをアンプにくっつけようか。丈のマイクは、シンバルが入りすぎるから、少し位置を変えよう。」
と、メンバーの中では一番オーディオにうるさい浩二が、てきぱきと指示を出す。

 それから二度ほど試し録りをし、その都度楽器のセッティングや、ミキサーのつまみを微調整した。
 楽器の定位としては、ほぼ「ベンチャーズ・オン・ステージ'72」に近いセッティングとなったが、試し録りを聴いた限りでは、程よいステレオ感と、楽器の音の分離の具合が、なかなか心地よかった。
 さすがはミキサーを使って録音しただけの事はある。
 問題は、本番で間違えずに演奏できるかどうか、だけであった。


             


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