20.Take Off(3)

 翌日の日曜日、朝10時に、待ち合わせ場所の国鉄柏駅の改札に行くと、すでに丈と浩二が来て待っていた。
 今日は秋葉原で秀がカセット・レコーダーを、お茶の水で浩二がグレコのアーム付きSGモデルを買う。
 かねてから欲しかった物を買いに行くので、秀も浩二も自然に顔がほころんでいる。人の事なのに、丈までもが何やらうれしそうだ。

 常磐線の快速電車にゆられ、日暮里で乗り換えて、まず秋葉原へ。
 当時、秀にはまだ行きつけの店というものはなかったので、駅周辺の何軒かを覗いて、一番安い店で買おうと決めていた。
 といっても、まだ、どのメーカーの、どんな機種を買うのかさえ決まっていない。まずは、秀の予算でどういうカセット・レコーダーがあるのかを見て歩かなければならない。
 しかし、秀はあちこち歩き回るのは、あまり好きではなかったし、この後浩二の買い物も控えているので、市場調査はそこそこにして、駅に近い朝日無線(今のLAOX)で、定価1万7千円のレコーダーを2割引きで買った。
 この頃、ステレオ・ラジカセなる物は存在せず、ラジオもついていない、モノラルのテレコであったが、それまでに使っていたオープン・テレコに比べると、かなりソフトでスマートな外観である。黒くて四角い箱型なのが、ちょっとメカニックで気に入った。
 スイッチ類も、オープン・テレコ時代のハンドル式ではなく、ボタン式でカッコよかった。メーカーはSONYである。
 当時、ギターはグレコ、アンプはエース・トーン、カセットはSONYかT.D.K.というのが、秀のこだわりであった。
 同じような性能で、もう少し安いメーカーの物もあったが、秀は迷うことなく、SONYを選んだ。

 さて、小一時間ほどで秋葉原での買い物を済ませた三人は、すぐに総武線に乗り込み、隣のお茶の水へと向かう。
 行く先は、駿河台を下り始めて間もないところにある、石橋楽器である。秀がギターやアンプをここで買った流れで、浩二もそうする事にしたのだ。

 SGタイプのギターは色々なメーカーから、数多く出されていたが、アーム付きとなると、極めて限られてくる。
 浩二はずっとクラスの友人の、グレコのSGを借りて弾く事が多かったので、ネックの形状や音質など、やはりグレコのギターが気に入っていた。
 ところがグレコのSGモデルのアームは、ビグスビー・タイプというスプリング式の物しかなく、ドン・ウィルソンが使用している板バネ式のタイプはなかった。
「ドンのと同じアームが付いたグレコのSGはないかなあ。」
 浩二は陳列されているギターを端から見渡しながら、つぶやいた。
 念のために、店員に聞いてみると、グレコのアーム付きSGは、やはり一種類しかないという。
 他の耳なじみのないメーカーの物で、板バネ式のアームが装着されたSGもあったが、浩二は得体の知れないメーカーのギターを選ぶ事を躊躇した。
 結局「アーム付きのSG」という概念だけを重視し、アームの形状については目をつぶる事にしたのである。
 秀が赤いテレキャスターを求めた時もそうであったが、市販のエレキ・ギターの種類のバリエーションが、まだまだ少ない時期で、国産の特定アーティスト・シグネチャー・モデルといえば、クイーンのブライアン・メイ・モデルぐらいしか存在しなかった。
 ましてや「SGドン・ウィルソン・モデル」など、ある訳がない。

 浩二が定価3万5千円のビグスビー・アーム付きSGを二割引きで買うと、丈はドラムのスティック4本を調達し、三人は帰路についた。
 秀の手にはカセット・テレコの入った朝日無線の手提げの紙袋、丈の手にはスティックを入れた細長い紙袋、そして浩二の手には、真新しいグレコ・ギターの黒いハード・ケースがぶら下がっていた。
 柏に着くと、三人とも腕がムズムズしていて、そのまま高校のブラスバンド部室に直行し、さっそく音を出した。
 このところ、丈に借りているレスポールを使う事の多かった秀も、この時は演劇部室の奥からテレキャスターを引っ張り出してきた。
 赤いテレキャスターを持つ秀の横に、アーム付きSGを構える浩二。その姿をドラム・セットの向こうから見て、丈が満足そうに微笑んでいた。


             


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